「アンと揺られて道を行く」 (1/11) (yw9) by Lingus original Next


医者は、私が完治する見込みがあるとはっきり言った。
 
 
 
 
 

「少し時間はかかるだろう」と医者が言う。

「6週間から8週間はみといた方がいいけど、完全に治るはずだ。

無理はだめだよ。

二ヶ月くらい暖かいところで静養するのがいい。

日光に当たれば痛みも収まるさ。

氷の上で転んで、また膝を痛めることもないからね」
 
 
 

氷の上で転んで膝をひどく痛めてしまった。

その手術を受けたばかりだった。

暖かい地方でしばらく過ごすというのはいい考えに思えた。

でも、どうしたものか、いろいろ考えなければならなかった。

ともかく、私と妻のアンはこの5年、毎年冬にフロリダに1ヶ月ほど滞在してきてた。

今年もそうしようと計画していたところだった。
 
 
 
 
 

この話しはまったく渡りに船だった。

だが、問題は、私たちは、キャンピングカーで行く予定にしていたということだ。

もうすでにキャンプ地の予約も取って、お金を払ってしまっている。

膝の故障のため、キャンピングカーは運転できない・・・

少なくともあまり長時間は無理だ。

そして、アンはと言うと、まったく運転ができない。

車が大きすぎて、運転が怖くてできないと言う。
 
 
 
 
 

飛行機で行って、泊まる場所を借りるという手も考えた。

だけど、それはお金がかかりすぎる。

もともと計画で貯めていたお金を考えると、大変だった。

幸い、コンドミニアムの借り賃と飛行機代を払う前に、アンの友人の未亡人がいいことを教えてくれた。
 
 
 
 
 

「大学に掲示するのよ」と彼女は言う。

「フロリダまでのドライバー募集ってね。

あなたたちが行きたい日付を掲げるの。

そうして待って御覧なさい。

この方法は私が毎年やっていることなの。

普通は、数件、反応があるわ。

去年は素敵な若者と一緒に行けたわ。

かかったお金はその人のためのモーテル代二日分だけ。

彼は本当に素敵な旅のお供だったわよ」
 
 
 

アンは、若い男というと目の色が変わるほうだ。

だから、それを聞いて興奮し、さっそくその日の午後に学生掲示板に掲示を出したのだった。

次の晩、4件問い合わせがあった。

私たちは、次の週末に出発するのでも構わないと言う2人の若者に会うことに決めた。

できるだけ早くフロリダに行きたいと思っていた。

だから、その2人のうちの一方で話がまとまればいいと思っていた。
 
 
 
 
 

次の日、彼らは一緒に我が家にやってきた。

二人は実は親友で、できれば二人一緒に旅行したいと思っていることが分った。

話しの後、私とアンは少し話し合いをし、二人とも連れていくことに決めた。

二人とも連れて行けば、私は一切運転する必要がない。

だから、私には好都合だ。

アンも異存なしだ。

というのも、二人とも「すっごいイイオトコ」だったからだ。

56歳のおばあちゃんだというのに、そんなことを言うとはね。
 
 
 
 
 

金曜のお昼、彼らの最後の授業の直後だった。

私はトレーラーをキャンパスに運転して行き、そこで彼らを乗せた。

一方のジャスティンという若者が最初に運転すると申した。

私は喜んで彼が運転席に付くのを手伝った。

さて、出発だ。

その日は、夜の宿泊地につくまで2、3時間の運転の予定だ。

「急ぐ必要はないよ」

ルートを説明しながら私は言った。
 
 
 
 
 

旅行の最初の1区間。

その間、私は前部座席にジャスティンと一緒に座って、街中から出るためのナビゲーターを勤めた。

私は、これまで何度もこのルートを走ってきていて、事情がつかめていた。

第一、彼に道路標識や、道路の出口などを気にしながら運転して欲しくなかった。

しかも、私の車は、9メートルのバス並のトレーラーだ。

大きくて運転しづらい。

しかもChevy Blazerを牽引しているのだから。

是非とも、運転に早く慣れてもらいたかった。

しかし、ジャスティンはすぐにこつを覚え、大変運転が上手だということが分った。
 
 
 
 
 

私は、道路に視線を向けつつも、同時に後のダイニング・ラウンジ室にいる妻ともう一人の若者にも目を向けていた。

二人は活発に会話をしていた。

彼、ノームは、アンが途上のスナックや飲み物を用意するのを手伝っていた。

二人がさらに仲良くなるまでに、どのくらい時間がかかるだろうか?

私は、それを思っていたが、どうやら、心配はいらないようだ。

ノームが顔を赤らめたところを見ると、アンはもうすでに始めたようだ。
 
 
 
 
 

アンについて・・・

それに私たち夫婦の関係について・・・

少し説明しなければならないと思っている。

アンは、典型的な落ち着いたタイプの中年女性ではない。

私たちも、典型的な夫婦の関係にはない。

ああ、確かに私たちはかつてはまったくごく普通の夫婦だった。

まあ、それはちょっと良い言い方にすぎない。

「決まりきっていた」とか「つまらない」生活。

少なくともアンにとっては、そう言った方が正確な表現だろう。

だが、3年位前に、物事が変わったのだった・・・

劇的に。
 
 
 
 
 

私は仕事で出張に出かけることが多かった・・・

今も出張するが、昔ほどではない。

とある木曜日の夜、最初の予定よりも一日早く地方廻りから帰ったことがあった。

金曜の面会予定がキャンセルされたためであった。

私が家に近づくと、玄関先の道路に車が一台止まっているのに気がついた。

私は、その車はアンの女友達のだろうと考えた。

さほど注意を払わなくてよいと。

大変なショックが私を待ちうけているとも知らずに。
 
 
 
 
 

私は家の中に入って行った。

だが、誰もいないし、人がいる気配すらしなかった。

私はアンに気づかれずに近寄って、早く帰ってきたことで驚かそうと思っていた。

アンは、私があまりにも出張が多いのでいつも不平を漏らしていた。

そんな妻にとって、嬉しい驚きになるだろうと思っていたのだ。

私は耳をそばだて、一階の各部屋を見て回った。

だが、アンの姿はない。

そこで、二階に上がろうとした。

音が聞こえる。

最初は、人が大きな痛みに呻いているような声に聞こえた。

病気に苦しむような声。

突然、喉を絞るような大きな叫び声が聞こえた。

そしてまったくの静寂になった。

寝室から声がする。

私は這うようにして静かに廊下を行き、ドアから寝室を覗こうとした時だった。

アンの声がした。

「ジョン、素敵だったわ。

あんな風にイッたこと、何年もなかったの」



つづく