「少し時間はかかるだろう」と医者が言う。
「6週間から8週間はみといた方がいいけど、完全に治るはずだ。
無理はだめだよ。
二ヶ月くらい暖かいところで静養するのがいい。
日光に当たれば痛みも収まるさ。
氷の上で転んで、また膝を痛めることもないからね」
氷の上で転んで膝をひどく痛めてしまった。
その手術を受けたばかりだった。
暖かい地方でしばらく過ごすというのはいい考えに思えた。
でも、どうしたものか、いろいろ考えなければならなかった。
ともかく、私と妻のアンはこの5年、毎年冬にフロリダに1ヶ月ほど滞在してきてた。
今年もそうしようと計画していたところだった。
この話しはまったく渡りに船だった。
だが、問題は、私たちは、キャンピングカーで行く予定にしていたということだ。
もうすでにキャンプ地の予約も取って、お金を払ってしまっている。
膝の故障のため、キャンピングカーは運転できない・・・
少なくともあまり長時間は無理だ。
そして、アンはと言うと、まったく運転ができない。
車が大きすぎて、運転が怖くてできないと言う。
飛行機で行って、泊まる場所を借りるという手も考えた。
だけど、それはお金がかかりすぎる。
もともと計画で貯めていたお金を考えると、大変だった。
幸い、コンドミニアムの借り賃と飛行機代を払う前に、アンの友人の未亡人がいいことを教えてくれた。
「大学に掲示するのよ」と彼女は言う。
「フロリダまでのドライバー募集ってね。
あなたたちが行きたい日付を掲げるの。
そうして待って御覧なさい。
この方法は私が毎年やっていることなの。
普通は、数件、反応があるわ。
去年は素敵な若者と一緒に行けたわ。
かかったお金はその人のためのモーテル代二日分だけ。
彼は本当に素敵な旅のお供だったわよ」
アンは、若い男というと目の色が変わるほうだ。
だから、それを聞いて興奮し、さっそくその日の午後に学生掲示板に掲示を出したのだった。
次の晩、4件問い合わせがあった。
私たちは、次の週末に出発するのでも構わないと言う2人の若者に会うことに決めた。
できるだけ早くフロリダに行きたいと思っていた。
だから、その2人のうちの一方で話がまとまればいいと思っていた。
次の日、彼らは一緒に我が家にやってきた。
二人は実は親友で、できれば二人一緒に旅行したいと思っていることが分った。
話しの後、私とアンは少し話し合いをし、二人とも連れていくことに決めた。
二人とも連れて行けば、私は一切運転する必要がない。
だから、私には好都合だ。
アンも異存なしだ。
というのも、二人とも「すっごいイイオトコ」だったからだ。
56歳のおばあちゃんだというのに、そんなことを言うとはね。
金曜のお昼、彼らの最後の授業の直後だった。
私はトレーラーをキャンパスに運転して行き、そこで彼らを乗せた。
一方のジャスティンという若者が最初に運転すると申した。
私は喜んで彼が運転席に付くのを手伝った。
さて、出発だ。
その日は、夜の宿泊地につくまで2、3時間の運転の予定だ。
「急ぐ必要はないよ」
ルートを説明しながら私は言った。
旅行の最初の1区間。
その間、私は前部座席にジャスティンと一緒に座って、街中から出るためのナビゲーターを勤めた。
私は、これまで何度もこのルートを走ってきていて、事情がつかめていた。
第一、彼に道路標識や、道路の出口などを気にしながら運転して欲しくなかった。
しかも、私の車は、9メートルのバス並のトレーラーだ。
大きくて運転しづらい。
しかもChevy Blazerを牽引しているのだから。
是非とも、運転に早く慣れてもらいたかった。
しかし、ジャスティンはすぐにこつを覚え、大変運転が上手だということが分った。
私は、道路に視線を向けつつも、同時に後のダイニング・ラウンジ室にいる妻ともう一人の若者にも目を向けていた。
二人は活発に会話をしていた。
彼、ノームは、アンが途上のスナックや飲み物を用意するのを手伝っていた。
二人がさらに仲良くなるまでに、どのくらい時間がかかるだろうか?
私は、それを思っていたが、どうやら、心配はいらないようだ。
ノームが顔を赤らめたところを見ると、アンはもうすでに始めたようだ。
アンについて・・・
それに私たち夫婦の関係について・・・
少し説明しなければならないと思っている。
アンは、典型的な落ち着いたタイプの中年女性ではない。
私たちも、典型的な夫婦の関係にはない。
ああ、確かに私たちはかつてはまったくごく普通の夫婦だった。
まあ、それはちょっと良い言い方にすぎない。
「決まりきっていた」とか「つまらない」生活。
少なくともアンにとっては、そう言った方が正確な表現だろう。
だが、3年位前に、物事が変わったのだった・・・
劇的に。
私は仕事で出張に出かけることが多かった・・・
今も出張するが、昔ほどではない。
とある木曜日の夜、最初の予定よりも一日早く地方廻りから帰ったことがあった。
金曜の面会予定がキャンセルされたためであった。
私が家に近づくと、玄関先の道路に車が一台止まっているのに気がついた。
私は、その車はアンの女友達のだろうと考えた。
さほど注意を払わなくてよいと。
大変なショックが私を待ちうけているとも知らずに。
私は家の中に入って行った。
だが、誰もいないし、人がいる気配すらしなかった。
私はアンに気づかれずに近寄って、早く帰ってきたことで驚かそうと思っていた。
アンは、私があまりにも出張が多いのでいつも不平を漏らしていた。
そんな妻にとって、嬉しい驚きになるだろうと思っていたのだ。
私は耳をそばだて、一階の各部屋を見て回った。
だが、アンの姿はない。
そこで、二階に上がろうとした。
音が聞こえる。
最初は、人が大きな痛みに呻いているような声に聞こえた。
病気に苦しむような声。
突然、喉を絞るような大きな叫び声が聞こえた。
そしてまったくの静寂になった。
寝室から声がする。
私は這うようにして静かに廊下を行き、ドアから寝室を覗こうとした時だった。
アンの声がした。
「ジョン、素敵だったわ。
あんな風にイッたこと、何年もなかったの」