釜山 1587年 李氏朝鮮王朝時代
一年のこの時期にしては珍しく、釜山の海岸沿いに嵐が猛威をふるった。雨期になるのは2カ月ほど先だったのだが、ほとんど突然、空が黒く染まり、天が海岸沿いの町に住む人々に、その怒りをぶちまけたのだ。
ジウンは、帰宅の道を急ぎながら、どうしてもっと早く漁を切り上げなかったのかと自分を恨んだ。今日、彼女はとりわけ大漁に恵まれ、最後のギリギリまで漁を続けようとしていたのである。いま、激しい雨に打たれ、頭に上着を被りながら、彼女は、その当然の報いに耐えているところだった。靴は濡れた砂に埋まり、どうしても歩みが遅くなる。 その時だった。彼女は、突然、砂の中の何かにつまずいた。
濡れた髪を顔から拭い払いつつ、つまずいたものに目を凝らした。あたりは暗く、ほとんど前が見えない。明かりと言えば、時折、空を引き裂く恐ろしい稲光だけ。しかし、一瞬の稲光の明かりの中、彼女は、かろうじて、砂に流木がいくつか転がっているのを見ることができた。そして、その隣に何か塊を見たのだった。
それは人間であった。ジウンは、不運な漁師が岸に流されてきたのかと憐みを感じ、自分の漁の獲物を浜に置き、その人を家へと引きずり始めた。
5分もすると、彼女はかなり疲労し始めていた。この男、漁師にしても、ひどく重い。嵐で先を急がねばと急きたてられていなかったら、何度も立ち止り、休んでいたことだろう。永遠に続くかと思われたが、それでもやっとのこと、彼女は男を家に連れ入れることができた。慎ましい家である。
木製の引き戸を締め、ジウンは、ほっと安堵のため息をついた。そして急いでろうそくのもとに行き、灯りをつけた。
ようやく明かりに目が慣れ、その人物を見たジウンは、悲鳴を出しそうになるのをこらえ、危うく、手元のろうそくを落としそうになってしまった。彼女の目の前、床の上には、男が横たわっていたのである。いや、男であるのは分かっていたが、いまだ意識を取り戻してないその男は、重々しい見知らぬ鎧を身に着けていたのである。このような鎧は、朝鮮の兵士が着ているものとは全く異なっていた。ジウンは好奇心を抑えることができず、もっとよく見ようと男に近づいた。
ろうそくを男の顔の近付けた。思ったほど年配ではない。年上とみても20代後半か。びしょ濡れのままなので服を脱がすべきだと思い、ジウンは灯りを横に置き、どうやればこの鎧を脱がせられるのかと迷った。
ぎこちない手つきで漆塗りと思われる様々な鎧の板を外していき、ようやく最後の武具を男の胴体から外した。その瞬間、男の肌に触れ、異様に熱くなっているのを感じた。この人は熱を出してる。
普段は慎ましい娘であるジウンであったが、それもすっかり忘れ、男の衣類をすべて剥ぎ取り、素裸にした。そして素早く身体を拭き、自分の寝台へと引きずり乗せた。
ほんのわずかしか掛け布は持っていなかったが、そのありったけの布団を男にかけ、身体を包んだ。その後、小さな箪笥に手を伸ばし、中から乾燥した植物を取りだした。それを粉に挽いた後、その粉を布に包み、その布包みをお湯にひたした。間もなく、ムッとする匂いが部屋を満たした。
ジウンはすぐに見知らぬ男の横に戻り、男の頭を抱え上げ膝の上に乗せた。そして、男を起こそうと、頬を叩いた。ようやく男が薄眼を開けたのを見たジウンは、先ほどのお湯を入れた椀を男の唇にあてた。
男はその湯の匂いに気づき、拒もうとした。それを感じたジウンは、この男に言葉が分かるか不明であったが、きつい調子で、
「文句はなしよ!」と言った。「飲むの!」
男は、彼女が言わんとしてることを理解したのか、その汁を飲み干し、またぐったりと横になった。これだけのことでも疲れ果ててしまったようだ。
ジウンは、二人とも何か食べなくてはいけないと思い、漁の獲物を置き去りにした浜へと走り、獲物を回収し急いで家に戻った。身体にかかった雨水を振い落しながら家に入り、早速、魚を焼き、アワのおかゆを作り始めた。そして乾いた服に着替え、男の隣に座った。
さっきとは違って、男の頬を叩いて起こそうとしたが、男は動かなかった。熱は引き始めていたが、代わりに冷たい汗が男の全身に噴き出していた。身体を震わせているのが見える。
ジウンは、少しおかゆを食べた後、男の鎧を珍しげに眺め、立ち上がり、刀を手にとり、調べた。刀を鞘から出した彼女は、その細い剣を作った見事な職人技に驚いた。美しい武器だった。
脱がせた男の衣類の横に再び座りなおしたジウンは、自分の両手を枕にし、薄暗い灯りの中、男の顔を調べるように見つめ、そしていつしか眠りに落ちた。
朝になりノボルは目を覚ました。頭がぼんやりし、身体もぐったりしている。起き上がろうとしたが、身体に力が入らない。枕から頭を上げるのがやっとだった。
枕だと? 俺はどこにいるんだ?
視界がはっきりしてくるのに合わせ、頭を横に向けてみた。そして、そばに若い女が眠っているのを見た。毬のように身体を丸めて眠っている。この寝台は、この女のものなのだろう。
自分の置かれている状況に不安になり、ノボルは気を失う前に起きたことを思い出そうとした。最後に覚えていることは、彼の乗った偵察船が海に乗り出したこと、そして、その数分後に嵐に遭遇したこと。俺は岸に打ち上げられ、ここにいる娘に見つけてもらったのだろうか。
体のふしぶしが痛んだ。そして、突然、自分が衣類を着ていないことに気がついた。だが、充分すぎる掛け布が身体に掛けられているのは、ありがたい。それにしても、わが身に降りかかった様々なことを思うと、気が落ちつかなると言っても言い足りない。この娘が着ているものを見ると、自分は朝鮮にいるのだろう。
思案を続けるノボルだったが、娘が目覚めたのを見て、唐突にもの思いを中断した。
不思議だった。娘は何も言わず、身じろぎもせず、黙ったまま、何分かノボルを観察していた。じっと目を見つめている。
ノボルはどうしてよいか分からず、ぼんやりと同じように見つめ返していた。娘は、20代前半とまではいかずとも10代後半のようだ。頬にそばかすがあるのを見て、ノボルはいささか驚いた。
ようやく娘は口を開き、何ごとかしゃべったが、ノボルには一言も理解できなかった。彼女は、ノボルの顔に浮かんだ問いたげな表情から察したのだろう、自分自身を指差して「ジウン」と言った。さらに数回、自分の胸を叩き、「ジウン」と繰り返した。
ノボルは、喉を渇かせつつ、かすれ声ながらも「ノボル」と声を出した。
娘は、うんうんと頷いた後、さっと立ちあがり、部屋の隅へと走り、何かを探し、戻ってきた。手には紙と硯を持っていた。
見るからに高品質な紙と高級そうなの硯で、ノボルは驚いた。娘は硯に水を加えながら、墨を擦りつけている。そして、筆を取り、何かを書き始めた。それが漢字であるのに気づき、ノボルは驚いた。
華麗な筆遣いで、娘は「大」の字を書き、期待している顔で彼の顔を見た。ノボルは何を期待されているのか分からぬものの、両手を大きく広げ、大きなものを表して見せた。
娘は、それを見て、再びうんうんと頷き、また、別の文字を書き始めた。今度は「嵐」の文字である。それを見て、ノボルが家の外を指さすと、娘は嬉しそうに声に出して笑った。
ノボルは娘がどうして笑ったのか分からなかったが、その明るい笑い声は嬉しく、彼自身もお返しに笑顔を見せた。
彼は少しお辞儀をしながら、娘の持っている筆を指差した。ジウンは彼が筆を求めているのを理解し、筆を手渡した。そして、彼が「国」の字を書くのを見た。
「ここがどの国か知りたいのね」 とジウンは声に出し、ノボルの顔を見た。そして筆を取り、「高い」と「王国」を表す漢字を書いた。朝鮮を意味する漢字ふた文字である。ジウンは男が理解したと頷くのを見た。
ジウンは、男と意思を通じ合わせる方法を見つけ、喜んだものの、もうすぐ紙がなくなってしまうのに気づき、心配になった。男は、彼女の懸念を察知したのか、ちょっと思案に没頭した後、ジウンに衣類を渡すよう頼んだ。下ばきに脚を通し、彼はためらいがちに立ちあがった。
ノボルは、今にも気を失いそうになりふらふらとしたが、ジウンが素早く立ちあがり、助けに入った。それでもノボルは頭を軽く振りながら、ジウンに家の中にとどまるよう身振りで示し、引き戸を開けて、家の外に出た。
よろよろと浜辺に出て、辺りを見回したノボルは、大きく平らな岩を見つけ、それを抱えて、家に戻った。
ノボルはジウンに、何か飲むような身ぶりを示した。それを受けてジウンは椀に水を入れて持ってきた。ノボルは、さっきとは別の筆をその水に浸し、岩に文字を書き始めた。水のおかげで岩の表面が黒ずみ、やがて乾いて消えた。だが消えるまでの時間で、文字を読み取ることはできる。ジウンは、書かれた文字が「石」の字であるのを読み取った。そして、顔を上げ、この賢い男に笑顔を見せた。その笑顔を見て、ノボルは心が温まるのを感じた。
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今や紙がなくなる心配もなくなり、二人は話し言葉によらない長い会話を始めた。ノボルは、海を渡ってきたのだが、嵐のために船が難破してしまったと説明した。ジウンは、以前、両親と朝鮮の都に住んでいたのだが、疫病で両親とも亡くしてしまい、ここで伯父と一緒に暮らしてしたこと、その伯父も2年ほど前に亡くなってしまい、以来、一人で暮らしてきていると説明した。
ノボルが、どうやって漢字を覚えたのかと訊くと、ジウンは、父親が宮廷の高官であったので、その父に教育をしてもらったと答えた。ノボルは、それでこの高価そうな硯があるのか、と口には出さず納得した。それにしても、この娘は、たったひとりで貧しい暮らしをしてきたのか…。ノボルの胸はジウンへの同情でいっぱいになった。
命を救ってくれたことに対して、いまだ正式に礼を言っていなかったことを思い出し、ノボルは石に感謝の言葉を書き、深々と頭を下げた。ジウンはにっこりとほほ笑み、お返しに頭を下げた。だが、ノボルは、ジウンがここで何をしているのかと訊くと、突然、罪悪感が襲ってくるのを感じたのだった。
本当のことを言えるわけがなかった。ノボルが使える将軍は、明朝を征服する準備段階として、彼女の国である朝鮮に侵略する計画をしていたのだった。ノボル自身は朝鮮国の人々について何も知らなかったし、とりわけ戦争は嫌いだった。だが、弟の三郎がこの小さな国の沿岸地域を偵察する使命を授かったのを聞き、ノボルは、その慎重な性格ゆえに、三郎ひとりにその使命をさせることができなくなり、偵察隊に加わったのである。それが今は、侵略しようとしている土地の住民に命を救われた。ノボルは良心の呵責を感じ、ジウンの顔をまっすぐに見られないと感じたのである。
ジウンはノボルが辛そうにしているのを察し、質問のことは忘れてと手振りで示し、食事ができるようにと石を横にずらした。
質素な食事をふたり一緒に食べながら、ジウンはノボルの食べ方を見ていた。男は茶碗を手に持ち、口に近づけ、箸でめしを口に入れているのだ。一方のノボルも、ジウンが茶碗を手に持たず、机に置いたまま食べるのに気づいた。
それにもう一つ彼が気づいたことがある。それは、よく見るとジウンは、明らかに貧しい身なりをしつつも、かなり美しい顔をしていること、そして高貴な娘の印象があるということだった。
ジウンは、ノボルの茶碗にお代わりを盛ってあげた後、引き続き彼の食べる様子を見、彼の顔をより詳しく見た。髭はきれいに剃り、髪はきっちりと結って、頭の上にまとめている。顔かたちは朝鮮の男たちと似ているけれども、それでも、小さな違いもいくつかあった。
ノボルは彼女の視線を感じで顔を上げた。ジウンは見ていることに気づかれて、視線を逸らした。顔が火照っている。横眼でこっそり彼の顔を覗き見した。ノボルが笑顔になっているのが見えた。それを見て、ジウンは恥ずかしそうに笑いだし、ノボルは、彼女の笑い声を聞いて、いっそう明るい笑顔になった。
食事を終えた後、ジウンは、ノボルに身ぶりで横になるように示した。ノボルは、これまでも充分に彼女の世話になっていることを感じ、断ろうとした。ジウンは、困った顔をして、例の石を持ってきて、病気なのだから、横になるべきだと書いた。すると、ノボルは、ジウンに床に寝せるわけにはいかないと、返事の言葉を書いた。
ふたりは石盤を挟んでどうしたらよいかと、しばらく見つめあった。どうにも埒が明かないと、いたたまれなくなったノボルは、おもむろに「一緒」の文字を書いた。とたんにジウンは眉を吊り上げ驚いた顔になった。それを見てノボルは思わず笑いそうになったが、それを堪えながら、「貞節」と「安全」を表す文字を並べて書いた。だが、ジウンは疑った顔しかしない。どうしたらよいか返事をもらえそうにないのを感じ、ノボルは胸の前で腕を組み、彼女の返事を待った。
実際、ジウンは、この見知らぬ男と寝床を共にするかどうか考えるとは我がことながら信じられない気持だった。だが、この男の振舞いには、どこか誠実なところがあり、ジウンは、男が彼女の名誉に危険をもたらすようなことは決してしないと言った時、その言葉を信ずることにしたのだった。
ジウンは、改めて警戒した一瞥をノボルに向け、その後、掛け布の上に身体を横たえ、壁を向いた。ノボルが隣に横になると、彼女はろうそくの灯りを吹き消した。
部屋は、入り口の戸の隙間から差し込む月光で満たされた。ノボルの隣に横たわることだけでも、いかに多くのたしなみに違反してしまうことか。ジウンは、それをあえて考えまいとした。だが、それでも、隣り合って横になっていることだけでも、ジウンは落ち着かない気持ちになってしまうのであった。
ノボルは彼女が居心地悪そうにしているのをはっきり察知していた。彼女がしきりともじもじと動き続けていたからだ。たまりかねたノボルはイライラした溜息を吐き、その動きを止めなさいと言うように、彼女の腕をぎゅっと握った。だが、彼女の腕に触れたとたん、ジウンが身を強張らせるのに気づき、素早く手をひっこめた。ジウンが肩越しに振り向いて怒った顔を見せた。
ノボルは両手の手のひらを宙に向けて広げて見せ、何の意図も持っていないことを示した。そして、彼女の顔の表情が和らぐのを見てほっとしたのだった。
その様子にはどこか面白いところがあったに違いなく、ジウンはクスクス笑い出し、それを見て、ノボルも意に反して微笑んでいた。そして、間もなく、二人とも声に出して笑いだしていた。ふたりとも笑いを止められなくなっているようだった。
ようやく二人とも落ち着いた後、ノボルはジウンの顔を見て言った。
「ジウン…」
ジウンも微笑みながら彼の名を呼んだ。「…ノボル」
「ジウン」
「ノボル」
ノボルにとって、まったく見知らぬ者であるのに、もっと言えば、言葉も分からぬ者であるのに、こんなに親密になるとは、実に奇妙なことだった。だが、二人で名前を呼び合うことで、状況の奇妙さが、若干、薄らいだような気がしていた。何よりノボルにとって不思議な気がしたのは、この女性といると、実に心が休まる思いがしていたことだった。このジウンという娘も似たような感情を味わっていたに違いない。というのも、額にかかった髪の毛を優しく払いのけた時も、彼女は嫌がる素振りを見せなかったのだから。
「ジウン…」
今回は、名前を呼ぶノボルの声は以前とは違っていた。それに彼女を見つめる顔の表情も。
ジウンはノボルに見つめられ、顔をほんのり赤らめた。そして恥ずかしそうに「ノボル…」と呼び返したのだった。
ノボル自身、自分が何をしたのか分からなかったが、気がつくと彼女の方に身体を寄せ、優しく唇を重ねていたのだった。自らの行為に驚いたノボルだったが、それはジウンにとってもほとんど同じだっただろう。ノボルはジウンが身を強張らせるのを感じたが、それでも彼女は避けようとはしなかった。ジウンは海のような香りがした。清らかで塩分を含んだ香り。
一度、唇を離した後、彼は再びキスを始めた。そして、ジウンが彼の求めに、ためらいつつも、返してくるのを感じた。それに勇気づけられ、ノボルは手を彼女の後ろ首にかかる髪に滑り込ませ、強く抱き寄せた。ジウンは小さな悲鳴を上げた。熱く固いものが身体に押し当てられるのを感じたからだった。
私は言葉すら分からぬ男と寝床を一緒にしている…。それに愚かしいほど淫らな気持ちにもなっている…。ジウンは不思議に第三者的に自分の状況を見ていた。すべてがとても現実離れしているのに、どういうわけか、この自分が助けた男に心を惹かれている。そして、キスをされ、手で身体を探られるのを許している…。
再び好奇心が勝ってきたジウンは、彼女自身の手がノボルの脚の間へと滑り入るのを止めなかった。そして、彼の一物に指を絡め、優しく握った。ノボルは小さなうめき声をあげ、彼女の行為に感謝の意を伝えた。
ノボルは夢中になりながら、ジウンの半丈の寝巻の帯を解き、彼女の胸を露わにさせた。ジウンは本能的に胸を隠そうとしたが、彼はそれを押しとどめ、引き続き彼女の寝巻を脱がし続け、とうとう彼女を素裸にした。
ノボルはジウンの意思を無視して身体を奪うことは決して望んでおらず、問いかけるような顔をして彼女の瞳を見つめ、無言ながらも、彼女の許しを求めた。そしてジウンも無言のまま、小さく頷いたのだった。
ノボルは自らの衣類を脱ぎ捨て、彼女に覆いかぶさり、キスを続けた。そして、ジウンが喜びの声を上げるのを聞き、あの部分がいっそう固さを増すのを感じた。
胸に唇を這わせ、さらに腹部を下へと舐め降りて行きながら、彼女の脚を広げ、その付け根に溜まっていた彼女の興奮の証を舐め取り始めた。
ジウンは、ノボルの舌があそこに来たのを感じたとたん、背中を反らせ、身体の下に敷いてある毛布を握りしめた。ノボルは両腕を蛇のようにジウンの腰の下へと滑り込ませ、彼女を顔に引き寄せ、その艶やかな肉壺を唇で覆った。その蜜のような味に頭の中が朦朧としてくるのを感じた。後頭部に彼女の両手の指があてられているのを感じた。自分の身体へ押さえつけている。それを受けつつ、ノボルは舌でジウンの身体を探り続けた。そして、やがて彼女が身体を震わせ、最後には絶頂に達し、身体全体を痙攣させるのを感じたのだった。
ジウンは、多幸感による恍惚状態から心が回復するのにつれて、意識をしっかり持とうと努めた。陰唇は依然として敏感なままで、そこに何か柔らかなものが当たってるのを感じ、快感に思わず身体を震わせた。そこに手を伸ばしたジウンは、ノボルの興奮を表わす熱く固いものが自分の入口に触れているのを知った。彼はまだジウンの気持ちが分からず、彼女の意志を尊重して待っていたのである。
ジウンはノボルの一物がヒクヒクと痙攣しているのを感じながら、にっこりと笑顔になって、頷き、同意の意思を示した。そしてノボルが彼女の腰を抱えるのを感じた。
ノボルは興奮のあまり一刻も待てない気持ちになっていた。そして一気にジウンの奥深くへと分身のすべてを沈めたのだった。いきなりの挿入にジウンは痛みを訴える叫び声を上げた。その声を聞いて、ノボルは、彼女が処女であったと考えもしなかったことについて、自分を激しく責めた。そして睾丸が痛いほど疼いているものの、ジウンのためを思い、できるだけゆっくり動こうと努めた。
ジウンの身体が慣れるのを待ちながら、ノボルは出し入れの動きを再開した。彼は、分身を包み込むジウンのその部分の締め付けの強さを心から喜んだ。ノボルは、次第に快感に没頭し、いつしか腰を彼女の腰へと打ちつけていた。そして、ジウンがひときわ強く彼にしがみつくのを感じた瞬間、ノボルは彼女の中で噴出を遂げた。それはジウンが頂点に達したのと同時だった。
ふたりは乱れた息で喘ぎつつも、しっかりと抱き合い、やがて満足して眠りに落ちたのだった。
翌朝、ノボルは寝台についた多量の血液を見て、痛恨の念に襲われた。それに、もしかしてジウンは処女を彼に奪わせたことを後悔しているのかもしれないと思い始め、次第に不安感が増してくるのを感じていた。ノボルはどうしてよいか分からず、ただジウンが目覚めるのを不安に駆られつつ待ち続けた。
軽くまばたきをしながらジウンは目覚め、顔をノボルの方へ向けた。そして彼が心配顔で彼女のことを見つめているのに気づいた。少し上体を起こし寝床へと目をやった。そこに自分がもはや処女ではなくなった証拠があった。それからノボルへと視線を戻した。ノボルはわずかながら怖さにたじろいでるような顔をしていた。
ジウンは、そんなノボルのおどおどした表情を見て微笑み、優しく彼の唇にキスをし、再び枕に頭を乗せ、休ませた。
見たところジウンは昨夜の出来事を後悔していないようだと知り、ノボルは計り知れないほど安堵し、彼女を優しく抱きしめた。そして、彼女が居心地よさそうに自分の腕の中に包み込まれているのを見て、満足げに微笑んだ。こんな幸せな気持ちになるのは普通のことではない。多分、これまで起きたことはすべて、ふたりを結び付けるための運命の仕業なのだとノボルは思った。
その後、二人で簡単な朝食を食べた後、ノボルは例の石を持ってきて、そこに文字を書いた。彼の国に一緒に来てほしいと伝える文字だった。ジウンは不思議そうな面持ちでその文字を読み、それからノボルの顔を見た。ノボルは、ほとんど少年のように期待感を顔に表してジウンを見つめていた。
ジウンの心は、こんなこと向こう見ず極まりないことと叫んでいたが、それでも彼女は首を縦に振り、そして、いきなりノボルの両腕の中に飛び込んだ。彼女は、嬉しそうな顔をしたノボルに胸が潰れそうなほど強く抱きしめられ、明るい笑い声を上げた。
ちょうどその時、ジウンは、家の外で人々の声がするのが聞いた。知らない言葉をしゃべっている。だが彼女が愛する人はその言葉が分かる様子だった。そして、なぜか突然、何かを恐れている顔になっていた。
ノボルは、ジウンから離れ、素早く石のところに這って行き、それから家の外へ駆け出し、引き戸を閉めた。
ジウンは、石に書かれた文字を見た。「中に留まってるように」という意味のその文字はやがて乾き、消えた。