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作者の言葉:
私は会話物が好きで、この物語も会話物である。淫らなシーンは出てこない。会話の中で言及
されるだけだ。行為の綿密な記述を好む人は、ここから先は読まない方がよいのかも知れない。
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「ねえ、聞いて?」
妻が、会話を遮るように言った。
「あなたにお話ししなくちゃいけないことがあるの」
車で家に帰る途中だった。
長時間のドライブで2時間以上かかる。
でも、出席したパーティは楽しかったし、長運転をして出席した甲斐があった。
久しぶりに会った人々がいた。
もっと楽しかったのは、書斎で、刺激的な議論に夢中になれたことだった。
長時間にわたって民主主義の手続きについて議論を戦わせた。
他の人と議論して、俺は力づけられたような気持ちだった。
ずっと田舎で暮らすのは、魂には良いが、知性には良くない。
アリスンは車の中で辛抱強く俺の話を聞いていた。
いや、それは俺の印象に過ぎないか?
今、一瞬にして分かったのだが、妻は全然、俺の話を聞いていなかったのだった。
「あなたにお話ししなくちゃいけないことがあるの」
俺は何か冷たいものが背中をつたうような気がした。
この言葉は、何かよからぬ知らせが待っていることを示す合図になることが多いのだ。
例えば、「ごめんなさい、私、末期ガンなの」とか、「ごめんなさい、あなたと別れることに決めたの」とか。
「なんだい?」
用心するような感じで言った。
目は前方の道路を見ている。
俺は、一瞬にして、さっきまで自分が話していたことを忘れてしまった。
「さっきのパーティでのことなの」
「うん?」
「あなたは、議論に夢中になっていたわ。そして私はダンスをしていた」
「ああ」
知っている。
アリスンはダンスが好きだ。
「新鮮な空気を吸いたくなって外に出たの。
一緒にダンスをしていた男の人とね。
マークっていう名前の人」
え?
俺に話すこととは、この手のことか。
だんだんと恐怖を感じながら、話を聞いていた。
「彼、私にちょっかいを出してきてたわ」
「なるほど」
話はそれだけなのか?
「そいつに口説かれたってことか?」
「ええ。キスされたわ」
「ああ。そして、お前もキスを返したと?」
「最初は、返さなかったわよ」
「最初は?」
「ええ、最初はね」
「で、それから?」
「彼は、やめなかったの」
「やめて欲しいと頼まなかったのか?」
「え、ええ・・・彼がやめるだろうと思っていたから」
「やめて欲しいと合図らしい合図をまったく送らなかったのか?
例えば、もがいて体を離すとか?」
「ええ、しなかったわ」
「なあ、アリスン。
もしそいつがお前にキスをして、お前も言葉や行動で彼にやめるように伝えなかったら、どうして、そいつがキスをやめると思うんだい?」
「なんだか、すべて私の責任みたいに聞こえるわ」
反発するようにアリスンが言った。
「話を続けろよ。男にキスを返したところまでは話を聞いたよ」
「そうだったかしら?・・・え、ええ、そうかも知れないわね」
「キスを返したんだろ?」
「うん」
「長かったのか?どのくらいキスをしていたんだ?」
「分からないわ。しばらくの間、だったと思う」
俺はイライラして溜息をついた。
「アリスン。
まったく何言っているんだ?
俺に何か話しごとがあるって、お前から言ってきたんじゃないか。
それなのに、お前はほとんど何も話していない。
俺がお前から聞き出す役になっているじゃないか。
まるで虫歯を引っこ抜いている歯医者になったようだ。
本当のところ、俺に伝えたいことって何なんだ?」
「そうねえ」
自分でも分かっていないようだ。
「多分、彼とキスしたことをあなたに話したくなったんだと思うわ。
潔くはっきりと告白したかったんだと」
「実際、それは俺に話したことだろう?お前がそいつにキスしたと」
「ええ。あなたに話すべきだと思ったの」
「ああ。話してくれて嬉しいよ。
そんなことは間違ったことでもない。
分かるか?
その話を聞いてもそれほど不快にはなっていないよ。
俺は理解できる。
お前はダンスが好きだし、キスされるのも好きだ。
多分その男は魅力的な男だったんだろう。
違うか?」
「ええ、そう。はっきり言って、魅力的な人だったわ」
「俺は理解できる。話がそこまでならね」
沈黙が続いた。
気まずい沈黙だった。
妻の方をちらっと見た。
顔をそむけて窓の外をじっと見ている。
「いいよ」
優しい声で言った。
「話には続きがあるんだね。話してくれ」
「簡単じゃないわ」
静かな口調で言う。
「そこから先は話すつもりじゃなかった。
そうじゃないのか?
ダンスとキスのところまでしか俺に話すつもりじゃなかったと」
無言状態。
無言と言うことは認めたものと俺は解釈した。
「俺が質問したら、正直に答えてくれるかな?」
「ちっ!」
きつい調子ではないが、はっきりと聞こえた。
感情がこもっている。
妻らしくなかった。
汚い言葉を吐くことは滅多になかったからだ。
いや、この話すべてが妻らしくなかった。
冒険をしたり、ちゃらちゃらとしたり、でしゃばったり、無防備になったりする女じゃない。
滅多にお酒も飲まないし、たばこも吸わないし、ギャンブルもしない。
当たり前の話だが、遊び歩いたりもしなかった。
ただし、この8年間の夫婦生活で、俺が彼女を完全に誤解していたのなら、話は違う。
妻は、慎ましやかで保守的な女性で、家庭を守る主婦だ。
二人の子供たちにとっての尊敬すべき母親のはずだ。
俺は、念を押した。
「アリスン、本当のことを話してくれるね?」
「あなたが質問したらね」
強ばった感じの声で答えた。
「わかった。それじゃあ、その後、何が起きたんだい?」
無言状態。
・・・
「それには答えられないわ。難しすぎるわ」
よかろう。
分かったよ。
もっと具体的に訊かなければならない。
適切に具体的な質問が必要なのか。
「そいつはお前の胸を触ったのか?」
「ええ」
「それで、お前は胸を触らせていたのか」
「いえ・・・、あ、ええ。分からない」
また顔をそむけて窓の外を見た。
「やめさせなかったのは本当だわ」
「それから、そいつは両手で胸を触ってきた」
「ええ」
「ちょっと待てよ」
妻の姿を見てみた。
「そのドレス。
前がボタン留めになっているな。
そいつは、そのボタンを外したのか?」
「ええ」
「ドレスの中に手を入れられたのか?」
「ええ」
「そして、お前もされるままになっていた?」
深い溜息を吐いた。
「やめさせなかったのは本当だわ」
「ひょっとすると、その頃には、お前もやめて欲しくなかったんじゃないのか」
沈黙状態。
「違うのか?」
「分からないわ」
「だけど、やめさせなかったんだろ?」
「ええ」
「ブラの中に手を入れられたのか?」
「ええ」
「手を入れるのは当然だな。ブラを外されたのか?」
ためらい状態。
そう感じた。
「ブラを外されたのか?」
もう一度訊いた。
「いえ、外されなかったわ」
どうして、最初に訊いたとき妻はためらっていたんだろう。
しつこく訊いてみた。
「ブラは取ったんだろう?」
不平を漏らすような音を喉から出している。
「ええ、そうよ」
「もし、その男が外したんじゃないとすれば、お前が外したんだな。そうだろ?」
「そうよ」
「アリスン。信じられないよ。
お前は、男に胸を触ってもらえるように、自分からブラを脱いだんだよ」
「その通りよ」
「まったく。ドレスの方も脱いだのか?
そうだな、腰のところまで裸になったのか?」
また、不平の音が聞こえた。
「ええ」
「胸にキスされたか?」
「ええ。ああ、もう助けて」
「ああ、もう、アリスン。
どこまで話が続くんだ。
まったく、そいつとセックスしたのかい?」
「いえ、しなかったわ」
素早く答えが返ってきた。
これは本当だ。
俺に嘘はついていない。
だが、もっとあったのははっきりしている。
「パンティの中に手を入れられたか?」
「ええ」
諦めつつあるような声に変わっていた。
「指を入れられたのか?」
「ええ」
「お前・・・イッたのか?」
妻は突然怒りだした。
「ええ、そうよ!」
大きな声で叫んだ。
だが、急速に高まった怒りも、高まったのと同じ急速度で、沈んでいった。
「ええ、そうなの・・・。感じたわ」
静かに繰り返していた。
暗い道路を走っていた。
今得た情報を整理しようとはしていなかった。
まず最初に全部を知っておかなければならなかった。
「そいつのペニスに触ったのか?」
「ええ」
「どうなのかな。ズボンの上からか?」
「ええ」
「そして、ズボンの中でも?」
「ええ」
「チャックを降ろして手を中に入れて、ペニスを握ったんだね?違うか?」
「ええ、そうよ」
「ズボンの外に出したのか?」
「ええ」
「しごいてやったのか?」
「ええ」
「手でしごいて、出させてやったのか?」
「いえ」
「じゃあ、どうやったんだ?」
「その質問は答えられないわ」
「いいかい、アリスン。どうやって出させてやったのか、教えるんだ」
「口でよ」
「そいつのペニスを舐めてやったのか?」
「ええ」
「お前は・・・
地面にひざまずいて、上半身裸で手にそいつのチンポを握って、口に入れていたのか?」
「ええ」
「そいつは、お前の頭に両手をあてて、いい気持ちになったということか?」
「ええ。多分、そうだと思うわ」
「そう思うのは、そいつが出したからだな」
「ええ」
「畜生! お前の口に出したのか? お前は飲み込んだのか?」
「ええ」
「まったく!
俺が書斎で旧友たちと話をしてる間、お前は庭の茂みで男におしゃぶりをしていたと。
そういうことだな?」
「そういう言い方をしなければならないなら、否定はしないわ」
「で、それで話はすべてだな」
「ええ」
妻は初めて俺の方に顔を向けた。
目で俺の表情を探っているような気がした。
「それで充分じゃない?」
「十分なんてもんじゃないよ。
一体、どうしてしまったんだ?
全然お前らしくないじゃないか?」
「ええ、そうね。
正直、私も、どうして、なぜ、こうなったのか分からないの。
ともかく、してしまったの。
説明はできないわ。
あなた、これからどうするつもり?」
「いや、俺こそ訊きたいよ」
自嘲気味に言った。
「俺はどうすべきだと思う? 車を止めて、お前を放り出すとか?」
妻は何も言わなかった。
前方の道路をじっと見つめていた。
俺たちは何も話さずに、しばらく走り続けていた。
とうとう、俺が切り出す。
「そいつは何者なんだ?」
「名前はマーク。ティムとヘザーのワトソン夫妻の友人だと思う」
「で、そいつは、男前だと」
「まあ、そうね。どっちかと言えば」
「どっちかと言えば、どうなんだ?」
「ええ、男前よ。ルックスがいい人だったわ」
「お前は、もう一度、そいつに会うつもりなのか?」
「いいえ」
「誓えるか?」
「もう、会わないわ」
さらにしばらく運転した。
「本当のことを言ってくれ。
もし、安全にできるような状況だったら、そいつとセックスしたかも知れないのか?」
「分からない」
「アリスン。正直に!」
「今は、『違う』とは簡単に言えるわ。
その気持ちだし。
でも、あの場に戻ったら?
分からない。
ひょっとすると、したかもしれない」
また俺の顔を見ている。
「あなた、どうするつもり?」
「何もしないよ」
「何も?」
妻は驚いていた。
「俺に何ができると言うんだ。
お前を愛しているし、お前は俺の妻だ。
俺の子供たちの母親であり、俺の一番の親友でもあり、身近な同僚だ。
俺に何ができる。
本当の答えはただ一つ。
『何も』ということだけだ。
お前は冒険をした。
俺は、なんとかその事実を認めて暮らしていけるようにしなくちゃいけないだろうな。
それ以外の方法は、何もないんだから」
妻は、考え事をしながら、無言でいた。
さらに車は進み、何キロか走った。
俺が口を開いた。
「もし、俺たちがこのことを過去のことにしようと思うなら、すべて、はっきりしておかなければならない。
お前は、俺に全部包み隠さず話さなければならない。
もし何か言い残したことがあるんじゃないかと、俺が感じた場合、俺は、それに引っかかり続けるだろう。
まだ、話すことはあるんじゃないのか?」
「もうないと思う」
ためらいがちに言う。
「全部話したと思うわ」
「じゃあ、お前がイッたのは、その時、一回だけだったんだな」
間があいた。
「いえ。二回だわ」
「ほらね?
まだ話していないことがあるんだよ。
それを俺がお前から聞き出さなくちゃいけないのかなあ」
「たった今、思い出したのよ。あなたに訊かれたから」
「2回目はいつだったんだ?」
「彼が・・・その・・・出したとき」
「フェラをして出させてやったときか?」
「ええ、その時・・・分からないわ。
とても興奮していたからだと思う。
突然、感じてしまったの」
「そして、出されたのを飲み込んだと」
「そのことはもう言ったわ」
「全部、飲んだのか?」
「全部じゃないわ。とてもたくさんだったから」
「口から溢れたのか? どこに溢れた?」
「体の上とかドレスとか」
「まだ、ついているのか?」
「ん、ええ・・・。ついてると思う。・・・多分」
「アリスン。
お前は車の中で俺の隣に座っているんだぞ。
なのに、体には他の男のスペルマが乾いてこびりついているし、ドレスにも染みになっているのか。
そういう状態なのか?」
「そういう言い方をしたいなら、そう言ってもいいわ」
「他に、俺に言わなくちゃいけないことはないか?」
「ないわ・・・。全部言ったと思う」
「これまでは、こんなことは一度もしていないんだな?」
「それは分かっているはずよ」
「そして、今後も、もうしないんだな?」
「約束はできないわ」
「え? 何だって? どうするつもりなんだ?」
「正直、何かをする計画なんか立てていないわよ。
でも、将来、どんなことが起きるかなんて、言える人がいるかしら?
あなたも変わるかもしれないし、私も変わるかもしれない。
どんなことでも、変わらないとは言えないわ。
私は今、33歳でしょ。
これまでは、ずっと行儀のいい女の子できた。
でも、急速に歳を取ってきているの。
一分、一分ごとに魅力を失っていってるような気がするの。
決まり切った型に閉じこめられたまま、これから何年もずっと続くような不安がある。
今夜、一人の男性が私のことを求めてくれたわ。
そして、私も、何も計画していたり考えたりしていた訳じゃないんだけど、その人の求めに応じた。
ごめんなさい。
でも、そういう風にしたいと感じたの。
罪悪感はあったけど、同時に気持ちよかったの。
この数年で、こんなに興奮したことがなかったわ。
だから、また、こんな状況が起きたら・・・
私はそれに応じないとは、誰にも分からないんじゃないかしら。
あなたなら、分かる?
分かりそうもないわ。
私なら分かるかしら?
私は、自分に嘘はつけないわ。
今、『もうしません』って約束するのは、本当に簡単すぎるくらい簡単よ。
でも、心の中で、その約束は守れないかも知れないって声が聞こえるの。
あなたのこと、今以上に愛している時はないわ。
この結婚も台無しにしたくない。
それに、あなた以外の人と暮らしていくのもイヤなの。
今はただ正直な気持ちを話しているだけのつもりなんだけど」
「ということは、俺はお前を信頼できないと。・・・そういうことだね」
俺は落ち込んだ気持ちで言った。
「もしかすると、これまでもあなたは私を信頼すべきじゃなかったのかも知れない。
信頼関係は、満足感を生むけど、同時に、退屈さも生むものだわ。
私は退屈したくないし、人を退屈にさせたくもないの」
嫉妬心が、消化不良を起こした冷えた食べ物のように、重く胃の当たりに残っていた。
だが、この現実は避けようにも避けられない。
今までずっと、俺はアリスンを退屈な女のように扱ってきていたのだ。
そして、俺自身も人を退屈にさせるような人間になりかかっていたのだ。
俺は妻に言った。
「お前に話をしなくてはいけないことがあるんだ」
「え、何?」
「俺は、来週、ダンス教室に行く予約を取ったよ」
妻は笑った。
二人の間で張りつめた空気がやわらいでいく。
「嘘でしょ?」
「まあね。でも、予約は取るかもしれないよ」