遅くなっていた。
実際、もうすでに、かなり遅くなってしまっていた。
俺は、もう眠くなっていた。
でも、シーラには、そんな気配がない。
彼女は、まだナンシーとジョンと話しこんでいる。
まるで、永遠に話しが尽きないかのようだ。
部屋の中を見まわした。
俺たちはモーテルの部屋にいて、座って、飲んだり話たりしていた。
このモーテルは、俺たちの家、ジョンの家、そしてナンシーの家のちょうど中間の辺りにある。
俺を除くみんなで、ここに集まって話をしようと計画を立てたのだった。
みんなでここに通い始めて、何ヶ月か経っていた。
まあ、ともかく、ジョンの家族もナンシーの家族もおしゃべり好きだ。
それに対して俺がなにか文句があるというわけではない。
俺自身はわりと無口な方だ。
だから、こういうおしゃべり好きの家族と「仲間」になって付き合うのをむしろ喜んでいると言っていい。
でも、今はごめんだ。
俺は、何かをするって状態じゃなかった。
「あなた、もう眠いんじゃない?」
シーラは俺の状態に気がついて、そう言った。
「ああ、まあ、その通りだよ」
「じゃあ、ベッドに入ったらどう?今の調子だと、一晩じゅう私たちお話してるわよ」
「ああ、分かった」
少し混乱した頭で、俺は辺りを見まわし、自分の着替えの服のことを考え、それからドアに向かった。
俺たちは3部屋借りていた。
独立した小屋のような部屋だ。
俺はふらふらしながら他の二つの部屋のうちの一つに歩いて行った。
連中が話をしている部屋は、俺とシーラが借りた部屋だ。
というわけで、俺は別の部屋に入った。
多分、ジョンとブレンダが入ることになってる部屋だと思う。
また、着替えのことを考えた。
他の人の部屋にいるのに、着替えを入れたスーツケースを持って来ていない。
でも、ともかく、ズボンとシャツだけを脱いで、ベッドに入ることにした。
そして、あっという間に俺は眠り込んでしまった。
目を覚ました。
ドアが開いている。
電気が点いて、そして消えた。
俺は体を起こし、薄暗い照明を点けた。
「私よ」
ブレンダだった。
「あ、すまない」
俺はナンシーの部屋に行くべきだった。
ナンシーとシーラが話しこんでいる限り、ナンシーの部屋なら自由に使えるはずだったから。
「ナンシーの方に移ることにするよ」
ブレンダがいる前で、どうやって服を着るか?
それを考えていた。
「あら、ここにいられないの? 私・・・私、こんなところに一人でいるのはいやだわ」
「いや、でも・・・」
「あら、大きなベッドじゃない。それに、私と同じく、あなたもくたくたになってるんでしょ・・・」
実際はセミダブル程度の大きさだった。
ブレンダは浴室に消えた。
俺はどうしたものか考えたが、結局、諦めて、再び眠ることにした。
浴室のドアが再び開いた音がした。
そして、ベッドの向こうがわに彼女が近づく音も。
「おやすみなさい」
ブレンダの柔らかい声がした。
俺は、本当に疲れきっていたので、ブレンダが横にいることをあまり気にしなかった。
でも、彼女のほうは、しきりに寝返りを打ってる。
落ち着かないようだ。
俺は、彼女の夫のジョンのことを考えた。
ブレンダは、毎晩、こんなに寝相が悪いのだろうか。
俺は、もっと居心地が良くなるように横向きに寝た。
「ごめんなさい」
ブレンダの柔らかい声がした。
「え?何?」
彼女が近寄ってくるのを知覚した。
手が俺の身体の横に当てられた。
「あなたのことを起こしちゃってるわね、私」
「ただ、横になってればいいんだよ」
「ねえ、ちょっと・・・私を抱いてくれない?いつも、そうされて寝てるの」
本当に近くに寄ってきている。
そんなことしてはいけないと思った。
「ブレンダ・・・」
「いやっ、ちょっと抱いてくれてるだけでいいのよ。だめ?」
俺は寝返りを打って彼女の方を向いた。
ブレンダは俺に背中を向けて寝ていた。
俺の手を引いて、自分の肩に当てている。
ナイトガウンを着ているのが分かった。
俺に背中を押し付けてくる。
互いに寄り添い合うかたちだ。
片足を俺の足の下に絡めてくる。
「こんな感じにね」
彼女の声がした。
彼女はうとうとと眠ってしまった。
寝息の感触からそれが分かる。
俺は、彼女を抱いたまま、横になっていた。
目がさめた。
まだ、夜だった。
車のドアの音。
人の声。
連中はどこかに出かけるつもりなのか?
「何かしら?」
ブレンダの静かな声がする。
「ピザでも、食べに行くのかな」
「そうね。ありがとう」
「何に?」
「こうして抱いてくれてたこと。こうされるのが、とても好きなの」
「それはよかった」
「性的なものじゃないわよね?」
「分かってる」
ブレンダは答えなかった。
なんて奇妙な状況だ。
シーラがやってきたら、どう思うだろう?
俺はいつもブレンダのことが好きだった。
ちょっと物静かだが、いい人だと思ってた。
「こうしているの、邪魔になってる?」
ようやく、ブレンダが口を開いた。
「何が?」
「こうして、私が体を押しつけていること」
はあ?
答えようがないよ、こんな質問!
もちろん、邪魔なはずがない・・・
ブレンダが体を少しくねらすように動かした。
「とても気持ちいいよ」
俺はようやくそう答えた。
ブレンダは、少しだけ笑い声を立てた。
そうして俺の手を強く引いて、頬に当てた。
「好きなの」
俺は答えなかった。
彼女が再び寝入るのに任せた。
ブレンダの寝返りで目を覚ました。
外が明るくなっている。
俺は、昨晩と同じように、彼女の体を包むようにして抱いていた。
「目を覚ました?」
ブレンダの声だ。
俺は体を起こした。
ブレンダは俺の方を向いて、微笑みながら僕を見詰めた。
そして、するりとベッドから抜け、浴室に消えた。
俺はズボンとシャツを見つけ、着た。
その後、まもなく、他の連中がやってきて、朝食を食べに近くのレストランに出かけたのだった。
お昼には、俺とシーラは帰路についていた。
シーラは眠たそうだった。
すぐにでも眠ってしまうだろうと思っていた。
車のシートを調節して少し倒し、じっと動かずに横になっていた。
「あなたたち、したの?」
そのままの姿勢で、動かずにシーラは言った。
もう寝てしまったものと思っていたのに。
「いや」
ほんのしばらく、シーラは何も言わなかった。
身動きせず横になったままだ。
ちらりとシーラを見た。
目を閉じている。
「わかる?私たち、部屋を覗き込んだのよ。あなたたちの姿を見たわ」
「俺は・・・ブレンダは一人になりたくないと言ったんだよ・・・」
くすくす笑っている。
「それで、あなた、ただ抱いていたというわけ?」
「実際、そうだよ、その通り!」
再び、シーラはしばらく何も言わなかった。
そして、口をきいた。
「彼女、ほんとにまじめなのね。あの姿勢なら、何か起きても変じゃないわ」
俺は、シーラの解釈の仕方にちょっと驚いていた。
何も起きなかったのではあるが。
「ともかく、何もなかったんだ!」
「でも、彼女、いい人よね。それに、あの人、可愛らしい人だと思わない?」
俺はもう一度シーラの方を見た。
まだ目を閉じたままだ。
どこから見ても、すっかり、リラックスしきっているように見える。
「ああ、確かにね。でも、俺は、俺が必要としたものは手にしたよ」
また、くすくす笑った。
「ええ、そうでしょうね。そして、あなたには、チャンスがあったのよね」
<終り>