「報復:プロローグ」 Requital by Longhorn__07 出所

作者の言葉:
この物語をHardDaysKnight氏に捧げる。彼は、一番最初に、私に物語を書き、このウェブサイトに投稿するように薦めてくれた。応援ありがとう、相棒。心から感謝している。

プロローグ

クリスマスの1週間前。

スティーブ・カーチスは唇に笑みを浮かべてはいたが、実際は楽しんではいなかった。彼は、妻のバーバラと、このパーティに来ていた。ホリデー・シーズンの陽気な雰囲気に煽られたとも言えるし、バーバラとの冷めた関係が、これで変わるかもしれないと期待して、でもあった。彼女との関係が冷めていることに最初に気づいたのは2ヶ月ほど前だったが、その原因が何であるのか、まったく分からない状態であるのは、2ヶ月前も今も変わらない。

今夜は、バーバラの同僚や友人たちと一緒に楽しむべき、心温まるクリスマスの夕べの外出となるはずだった。スティーブは、これまでの集まりで、彼らの何人かと知り合いになっていたし、今回のパーティは、その関係をさらに深めるのに良い機会になると思っていた。だが、実際は、彼の笑みは、時間と共に作り笑いに近いものになりつつあった。

どういうわけなのか、バーバラのボスの甥は、この場に現れるや、彼女が座っているテーブルの席次を決めたのである。彼は、自分のことを「ボスの甥」であると強調していた。彼は、隣のテーブルから椅子を素早く移動し、バーバラの隣で開いていた隙間に割り込んだ。

これにはスティーブをムッとさせたばかりでなく、彼が割り込んできたことで椅子を横にずらさなければならなかった男もいらだたせた。

この男のことをバーバラは「ジミー」と呼んでいた。このジミーは、さらに悪いことに、バーバラの関心を独り占めするために、ありとあらゆることを臆面もなく行ったのである。信じられないことに、当のバーバラはそれを喜んでいるように見えた。恥も外聞もなく行われた、時には驚くほど親密な、おだてやいちゃつき。バーバラは、その一つ一つを歓迎しているように見えた。

ジミーとバーバラの2人が笑い出した。2人で頭を寄せ合って、「トレーラー・トラッシュ」(参考)について、ジョークを話し合って笑っている。スティーブは、もはや見せ掛けの笑顔は見せていなかった。笑顔から真顔に変わる。そのテーブルについていた9人のなか、スティーブの妻であるバーバラとジミーだけが、そのジョークを面白いと思っているらしい。スティーブは咳払いをし、不機嫌な表情をあえて見せて、苛立つ気持ちを表に出した。

ジミーは周囲を見回し、スティーブに顔を向け、あからさまにニヤリと笑って見せた。

バーバラは夫に顔を向けて言った。「あら、スティーブ? 少しは打ち解けたら? ただのジョークよ」

さらにたしなめる口調になって言う。「スティーブ? そんなに真面目に取らないの。ジミーは、ただ、生活水準が低い人たちについて、的確なことを言おうとしてただけってことなのよ。だから、お願い」

「その通りだ」 ジミーが会話に割り込んだ。「彼女の言う通り! アハハ!」 

彼のしわがれ声の笑い声が広がり、テーブルに座る者たちの耳に届く。その笑い声に半拍ほど遅れて、バーバラのクスクス笑いが続く。

「実際、僕は、君がああいったジョークを理解できるとは、そもそも思っていないがね。いや、君が悪いって言ってるんじゃないさ・・・ただ、建設工事の労働者は、あの手のジョークを素直に喜ばず、余分な意味を感じてしまうんだろうなって、そういうことなんだが」

ジミーは満足げに言い終えた。そして、テーブルに座る人々一人ひとりに笑顔を見せた。そうすることによって、スティーブのこの場での立場を皆に分からせ、それに同意するように誘った。

バーバラは、再び、くすくす笑った。そして苛立った表情を夫に向けた。

スティーブは怒りを堪えようと努力した。それは簡単なことではなかった。彼はあえて間を置いた。背もたれがまっすぐな椅子で、わざと腰を前に出し、ぐったりとした姿勢になり、リラックスしようとした。両手を前に出しワイングラスの脚の部分をいじった。ジミーの首を両手で締め付けるかわりに、そうやって両手を遊ばせたのである。

「バーバラ? 彼が言おうとしていたことはね、僕のことを間抜けと言ったことに加えて、こういうことなんだよ。つまり、この世の中には、大きな家を買ったり、街の『正しい人が住む地区』にある、高価で贅沢なアパートを借りるのに充分なお金を持っていない人々がいるということだ。ジミーのお坊ちゃんは、そういう人々はバカで、だらしない酔っ払いで、笑いものになって当然と思っていると、そういうことなんだよ」

スティーブは、怒りを堪えるという心の内なる戦いに負けてしまった。

「ちなみに、皆さんご存知のとおり、私は改造した移動式住居で仕事をしています」

スティーブは、だるそうな口調ではあるものの明瞭な言葉遣いで話しを続けた。彼のことを知る者には、これは警戒信号である。スティーブが非常に堅苦しい口調になり、声を囁きより少しだけ大きな程度まで和らげて話し始めたら・・・その時はみんな退避しなければならない時なのだ。彼は、彼が子供の頃、校庭で初めて喧嘩したときからずっと、この点は変わっていない。

「建築計画の現場では私たちはそうやっているのです。トレーラーごと現場に移動する。そうすることで、すぐに現場に行けて、しかもコストの安いオフィス・スペースが確保できるのです。その場で監督業務を行うことができる」

スティーブは顔を上げた。バーバラが彼を睨みつけているのが見えた。

「さて・・・私が現在、監督している建築現場で作業している作業員とその家族も、その多くは移動式住居で生活しています。というのも、経済的にそれしかできないから。もちろん、彼らは求めているのです・・・何と呼ばれているのかなあ? アメリカン・ドリーム? そう、それだ! それを求めている。彼らは、自分の家を持つというアメリカン・ドリームを求めているんです。だが今の時代は彼らには厳しい・・・いや、これまでもずっと厳しかったわけだ・・・何も新しいことではありません。現実はというと・・・そのような人々は、郊外の大きな家を手にし、その頭金を支払うための金を用意できるほど給与をもらえていないということなんです」

「しかも、金持ちの叔父がいるわけでもない」 誰もが、スティーブの口調に、叱咤するトーンがこもっていたことに気づいた。

「ジミー坊ちゃん」は口をあんぐりと開けてスティーブを見ていた。ジミーの叔父は会社の持ち主であり、これまで誰も、このようにあからさまな敵意を込めてジミーに話しかけようとする者などいなかった。ジミーは怒り始めていた。

スティーブは続けた。「私について言えば、私はこれまで一度も、自分に与えられた能力で、できる限りのことをしながら正直に、一生懸命働いている男女をバカにするような、冷酷な態度を取ったことはない。そんなことは、そもそも私にはできないこと。だが、そんなことができない自分のことを、私は立派な人間だと自負しているがね」

スティーブは、最後の言葉を言うのに合わせて、ワイングラスから目を上げ、強い視線でジミーの目を見据えた。いまやスティーブは怒りを隠そうとはしていなかった。もっと言えば、彼は、ジミーには侮辱されたという感情を抱いて欲しいと思っていた。同じテーブルにいた他の3組の夫婦のうち、2組の夫婦の夫が、来たる身体的接触を伴った口論に備えて、密かに自分の妻を守る動きに入る準備を始めた。

蒼白の顔でジミーが立ち上がった。スティーブに比べて極端に背が低いというわけではない。それに週に4日はジムに通ってトレーニングをしている。彼は、仕事で鍛えられた筋肉とバーベルで鍛えられた筋肉に違いはないと思えた。違いがあるかどうか、今から確かめようではないか。

「わしも君の意見にこの上なく同意じゃよ、若いの!」 大きな声が轟いた。

スティーブは振り返った。彼の後ろには、高価なスーツに身を包んだ背の低い禿げがかった男が立っていた。すでに老年期になってはいるものの、痩せた体をしっかりと直立させて立っている。

「わしが生まれた時も、父と母は小さなトレーラーに住んでおった。わしの楽しい想い出のいくつかは、あそこに住んでいた頃のものだよ」

見知らぬ男は力を込めて語っていた。老人は若いジミーをじっと見据えて語っていた。彼はジミーのことが気に入っていないらしい。ジミーは、突然に何か嫌なものを目の前に出されたような顔をしていた。がっくりと腰を降ろす。

「ジョーナス・レイノルズ」 

老人は自己紹介を兼ねて、そう名乗り、スティーブに手を差し伸べた。握手する二人。力が入った握手だったが、その握手は敵対心がこもった力ではい。スティーブは、この老人の手助けに感謝していた。いわば挑戦状のように力を込めた握手をしてくる男たちが多過ぎる。スティーブはそういう挑戦にはたいてい勝ってきたものの、そんな握手を受けるのが楽しいと思ったことは一度もなかった。

「スティーブ・カーチスです」 そう名を名乗ったスティーブに、レイノルズ氏は頷いて見せた。

「そして、こちらは君の奥さんかな・・・可愛いバーバラさん?」

そう言ってレイノルズ氏はバーバラに手を差し伸べた。バーバラは椅子から立とうとしたが、途中でやめてしまった。椅子を後ろに引くだけのスペースがなかったのである。そのまま立つとジョーナスにぶつかってしまうかも知れないのだった。どうしていいか分からない彼女の顔に恥ずかしさによる赤みが首の辺りまで広がった。

スティーブのジミーに対する挑発は、老人の登場によって、いささかはぐらかされた形になっていた。スティーブは、遅まきながら、不安感を感じ始めていた。彼の妻が働いている会社は「レイノルズ・アンド・サンズ」という名前である。したがって、自分のそばに立っているこの老人は、まさにそのレイノルズ氏に違いない。自分が感情的に怒りを露わにしたことにより、バーバラは、今の高給の職を失うことになってしまうかもしれない。スティーブはちらりとバーバラを見てみた。彼女の目には一瞬、怒りの表情が浮かび、彼女はすぐに顔を背けてしまった。

レイノルズ氏が静かな声でジミーに言った。

「ジミー? お前はジェニー叔母さんのところに行って、何か手伝うことがないか訊いたほうが良さそうじゃな」

ジミーの顔が変わった。抗議したいという表情に加え、かすかに必死に懇願する表情も浮かんでいた。

「さあ早く、ジミー!」

ジョーナス・レイノルズの声には、間違いなく、権力を持つ者が与える、ピシリと鞭打つような厳しさがこめられていた。

ジミーは立ち上がり、向きを変えた。椅子を後ろに引くとき、大きくキーキー音が響いた。耳たぶを暗い紫色に染めながら、彼は静かな足取りでホールの向こう側へと歩いていった。ジョーナスも、テーブルについていたすべての人も、彼が部屋から出て行くまで、ずっと目で彼を追った。

「多分、ジミーはこのパーティに長居するつもりはないじゃろうな。誰でも、一族のために自分ができることをしようとするものじゃ・・・だが、時として、上手くいかないことがある」 ジョーナスは、物思いをするようにそう語った。

彼は再びスティーブに握手を求めて手を差し出した。今度は、スティーブも立ち上がって握手を受けた。身長が180センチ以上はあるので、彼と比べてずっと細身の初老のCEOと並ぶと、大きくそびえ立つように見える。

「君には、たった一人の横柄な青二才だけで、レイノルズ一族の全員を判断なさらんように願いたい。バーバラは、わしらのチームには貴重な一員なのじゃよ。・・・ジミーの思慮を欠いた行動のために、彼女を失うことになるのは困る」

そう言ってジョーナスは、まぶたを伏せてバーバラに顔をちらりと向けた。彼の顔は、無表情で、その時の彼の心を読み取ることは不可能だった。それからジョーナスは顔を戻し、テーブルについている全員を見回した。

「皆さん・・・わしが皆さんの集いに割り込んできたことをお許し願いたい。どうか、今夜は最後まで楽しんでいってくだされ」 彼は暖かい笑みを浮かべ、仲間に対して行うように、スティーブの肩に手をかけた。そして静かに立ち去っていった。

テーブルでの会話が再開するのに2、3分かかったが、再開後は前より明るく、会話の間に挟まる笑い声も多くなっていった。男性客は、全員、パーティが終わるまでに一度はスティーブのところに来て、彼と握手をした。女性客のうち2人ほど、トイレに行く途中にスティーブの後ろを通りかかったとき、優しく彼の肩を叩いていく者がいた。彼の頬に触れ、暖かく微笑んでいった女性もいた。

来客全員が気づいていたが、一言も口に出さなかったことがあった。それは、バーバラが最後まで口を利かなかったことである。その夜、ジミーは一度も姿を現さなかった。

********

2人が家にたどり着くまで、沈黙が続いた。玄関ドアが閉じると同時に、バーバラのイライラが沸騰点に達した。彼女は毒づいた。

「あなた、私の友達の前で私に恥ずかしい思いをさせたかっただけでしょ? 違う?・・・」

「それだけなのよ。あなたは私の友達が好きじゃないのよ。だから、ことあるごとに、私の友達を貶める。それなのよね・・・ジミーに対してあなたが取った勇ましい態度・・・あなたって、どうして、いつもあういうことをするわけ? ジミーは良い人よ。あんな目に会わされる筋合いはないわ」

スティーブは驚いた顔で彼女を見ていた。2、3秒その驚きの表情が続いたが、やがて彼の顔から、その驚きの表情が怒りの表情により追い出されていった。

「ちょっといいかな? あそこで君が恥ずかしい思いをしたとして、そういう風にしてしまった張本人は君なんだよ。君が自分で自分を目立つ存在にしていた。僕がしたことは、そんな君を見ているだけだった。他のことは何もしていない。あのバカにずっとくっついて、あいつが低脳なジョークを言うたび、女子高生のようにけらけら笑って。いったい、自分が何をしていたか分かっているのか? まったく・・・君は、まるであいつが映画スターか何かのように、あいつのところに引っ付いていたんだ?」

バーバラは唖然とした。口喧嘩になったとしても、スティーブが、こんなに強く反撃に出ることはめったにないことだった。まれに、そうなった場合、そのときは、彼が話し合いの話題となっていることを非常に深刻にとらえている場合であった。彼が議論において頑として譲らなくなった場合、バーバラが上手に出ることができたことはめったになかった。

バーバラは弁解がましい口調になった。「私・・・彼はただおしゃべりをしようとしてただけなのよ。あなたがどうして私にそんなにひどいことを言うのか分からないわ。ジミーは本当に人の良い人なの。時々、わざわざ私のところに来て、話しかけてくれるのよ。それのどこがいけないの? 私が友達を作ることのどこが悪いの?」

「全然、悪いところなんかないさ・・・そいつの言う言葉の一つ一つにいちいち感心したり笑ったりするようなところまで行かなければね・・・君が、パーティの間に少しでも自分の夫に話しかける労を厭わなければね・・・君が誰かさんとあからさまに仲良くなりすぎて、周りの誰もが無視できなくなるようなことにならなければね」 

スティーブは意図的に長時間バーバラを睨みつけた。

「あの後、いったい、何をするつもりだったんだい?・・・あいつの膝の上に腰掛けて、人まえだというのに、いちゃいちゃキスしあうつもりだったのか? 実際、いつそうなってもおかしくないような状態だったみたいだけどね。まさか、テーブルの下は見えなかったが、君たち、足を触れ合わせたりもしてたかも。そうしていたと言われても、僕には否定できないな」

バーバラの顔が蒼白になり、その後、二拍もするうちに見るみる赤くなった。

「ええ、ええ、してたかもしれないわよ」 皮肉交じりに言う。そして次に、けんか腰になって言った。「多分、この次は、彼の膝の上にお尻を乗せることにするわ! ジミーは、女に優しくする方法を知っているもの・・・彼は、工事現場を巡回する建築労働者の誰かさんとは違うから!」

スティーブは口元を固く引き締めた。妻の顔をじっと見つめた。彼には、この女性のことが突然分からなくなってしまった。

スティーブは落ち着いた口調で始めた。

「バーバラ? 君は今夜、あの場所に座っていて、誰だか知らんが、あの男が君の前で僕を軽視するのを放っておいたんだよ。君があのような事態を招いたのだし、しかも、それを笑っていた。テーブルについていた誰もがそれを見ていたんだ。あの時の僕は、かなり紳士的に振舞ったと思っているんだが・・・それも君を思ってのことだ。他の場合だったら、あの『ジミー坊や』の首根っこを引っつかんで、裏に連れ出し、ゴミ箱に放り込んでいたと思うよ。人に対する敬意というものを少しは考えろと教えるためにね」

スティーブはゆっくりと妻が立っているところへ歩いた。2人の寝室に通ずる廊下のところである。

「だけど、もし僕がそんなことをしたら、あいつにフェアじゃなかったかもしれない。そうだろ?」

バーバラは、夫が言うことを理解できず、彼を見つめていた。

スティーブは優しい声で続けた。

「バーバラ? もし僕が、あのバカが僕に向かって言ったことの仕返しとして、あいつを血まみれになるまで殴ることにしたら、僕は、君もあいつと同じようにゴミ箱に放り込まなければならなかっただろう。君とあいつ2人一緒にゴミ箱の中に寝ることになる。違うかな? 何と言っても、君自身の夫をバカにしていたのは、あいつばかりでなく、君も一緒だったのだから。そうだろ?」

スティーブはじっと妻の顔を見ていた。長い時間が経つ。二人とも何もしゃべらなかった。スティーブは怒鳴り声になった。

「だが、僕にはそんなことはできない。それは僕も君も分かっていることだ。違うか? 父はたいした男じゃなかったかもしれないが、僕に教えてくれたことがあった。女を殴る男は、牛の糞以下の人間だって」

また2人とも沈黙した。2人の会話では、普通、沈黙状態は長く続かない。それだけに、このときの沈黙は一層長く感じられた。スティーブは静かな口調に戻った。

「バーバラ? 君は僕と離婚したいのか?」 バーバラの目が大きく開いた。

「わ、私・・・いえ・・・どう言えば・・・あなた、過剰反応していると思うわ。そうじゃない?」

彼女は最初、言葉に詰まったものの、うまい切り返しを思いついたと思った。彼女は、最後の『過剰反応』という言葉を勝ち誇って口調で発し、夫が前言を撤回するのを待った。だが、彼は陰鬱な顔のまま彼女を見続けていた。

「これだから女ってのは・・・。過剰反応だろうが、そうでなかろうが、今夜、君がしたように、この次、君が他の男の側に立ち、僕に背いたら・・・この次、他の男が僕を侮辱し、僕を卑しめている時に、君が笑ったら・・・この次、君が他の男にへつらって、その男が言うことは君にとってこの世のすべてで、僕の言うことは何の意味もないと言わんばかりの態度を取ったときには・・・その時は、僕が、この結婚は終わったと思った時だと考えて欲しい。君が適当なことを言って僕の機嫌を取ろうとする前に、即刻、君と離婚する。本気だよ、バーバラ! 本当に起こりうることなのだよ」

バーバラはくるりと後ろを向き、廊下を走っていった。スティーブは、彼女よりゆっくりと、ほとんど、疲れたと言わんばかりの様子で彼女の後に続いた。彼は、この夜のパーティについて、とても明るい希望を抱いていた。だが、その希望も見事に打ち砕かれ、この2週間ほどずっとそうであったように、陰鬱な気持ちに戻されてしまったのだった。寝室のドアがバタンと音を立てて閉まった。その音が、静かな家の中全体に響き渡った。

寝室の前に来たスティーブは、ドアノブを回してみて、鍵が掛けられていることに気づいた。これも予想したことだった。彼は廊下にあるクローゼットに行き、毛布を何枚かと予備の枕を取ってくることにした。今夜は諦めてリビングのカウチに寝ることにしよう。少なくとも、クリスマス・ツリーの電飾はつけることにしよう。その明かりは、夜の間、ある程度、僕の仲間となって癒してくれるかもしれない。

だが、突然、前に感じた怒りが最大レベルで蘇った。彼は、その感情の高まりについて落ち着いて考えることはしなかった。ドアの反対側の壁に背中を預け、強いステップで前に突進し、肩をドアノブの上3、40センチ辺りのところにぶつけた。何かが壊れる音を出しながらドアが開き、反動で後ろ側の壁にバタンと音を立てて当たった。壊れたドアの破片や木枠が部屋中に飛び散った。

バーバラの悲鳴が長時間続いた。彼女にとって圧倒的といえる驚きだった。この暴力的な出来事に、彼女は対抗する精神力を失っていた。無意識的にわが身を守る姿勢を取り、両腕を前に突き出しながら、夫から後ずさりする。スティーブは、ドアの木枠の残骸を外側の壁に立て掛けた後、自分の妻に顔を向けた。嫌悪感を顕わに彼女を見た。

「そこで何やってるんだ! どっか調子が悪いのか?! 僕はさっきから君には何もしていないわけだ。だから、今からも君の体に触れるつもりなんかないのは、君がよく知ってるだろ!」

スティーブはウオークイン・クロゼットに行き、服を脱ぎ始めた。注意深くスーツとスラックスをハンガーに掛け、たった何時間か前にあった場所に戻す。

「あなたと一緒に寝たくないわ」 バーバラの声はかすれ、震えていた。スティーブは、ふんと鼻で返事した。

「だったら寝なきゃいい! だが、今夜は僕はこれっぽっちも間違ったことはしていない。したのは君の方だ。もし、僕と寝たくないなら、そうすりゃいい。だが、今夜は僕は自分のベッドで寝る。もし、ここで寝たくないなら、他に行けばいい。予備のシーツや毛布がどこにあるかくらい、知ってるだろう?!」

バーバラは何も言わなかった。少し間をおき、スティーブはベッドの支度を再開した。彼は、部屋の隅に突っ立っている妻を無視していた。彼女がスティーブの脇をすり抜け、部屋を出て行った時も、彼は彼女を止めようとはしなかった。

一人ベッドに寝るのは寂しかった。スティーブは眠りにつけるまで自分を落ち着かせるのに、長い時間が掛かった。夜明け近くのある時、彼はバーバラが彼の隣に入ってくるのを感じ、一時、目を覚ました。彼女は、同じベッドの上、彼とはできるだけ離れた位置に保ち続けた。スティーブは、いびきをかいて、寝返りをうち、彼女から離れた。そして寝返りの動きが終わる前に、再び眠りに落ちたのだった。


つづく
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