私と妻のメアリーは、ジェリーが住むアパートのドアの前に立っていた。
メアリーは、マニキュアが映える手でピンクの貝殻形のコンパクトを持ち、メイクのチェックに余念がない。
「さ、いいわよ」
妻はコンパクトを見つめたまま促す。
私は震えぎみの手を伸ばして呼び鈴を押す。
部屋の中からくぐもった声が聞こえた。
「入っていいみたいよ」
メアリーはコンパクトをパチンと閉める。
ドアノブに手をかけ、ゆっくり回す。
胸の鼓動が高鳴り、首から下の感覚がなくなったような心地がする。
ドアをゆっくり開ける。
「ジェリー!」
妻が歓声を上げた。
私がジェリーに会うのは初めてだ。
妻が言っていた通りの風ぼうである。
私より10センチ以上背が高く、暗色の髪はカールし、青い目がきらめいている。
メアリーはジェリーに歩み寄った。
二人は抱擁して唇を押し付けあう。
ジェリーの目が私をとらえた。
私はうつむいて妻の脚に目をやる。
日焼けして引き締まった脚だ。
愛人にキスをするためつま先立ちになり、ふくらはぎに力が入っている。
抱擁が終わるとメアリーは幸せそうにくすくす笑い、ジェリーの手を握りながら私の方に向いた。
「夫を連れてきたわ」
「はじめまして」
私は控えめに挨拶した。
ジェリーにじろじろ見られ、恥じ入ったまま立ちつくす。
「メアリーの言う通りだね。見るほどの価値もないよ」
妻は笑い声をあげ、ふくよかな胸をジェリーの腕に押し付ける。
「こいつの裸を見たら面白いわよ」
ジェリーは鼻笑いで応じる。
「あんたはメアリーの奴隷なんだって?」
「はい」
消え入るように答える。
ジェリーは妻と私を二、三度見比べた。
「俺とメアリーができていることは知ってるんだろう?」
妻は私を見てニヤリと笑い、ジェリーに身をすり寄せる。
「はい」
「はい旦那様と言いなさい」
メアリーが言いつける。
「は、はい旦那様」
ジェリーは少し心地悪そうにした。
それを察したメアリーは彼の腕を抱きしめる。
「だいじょうぶよ。前も言ったけど、こいつはこんな風にされるのが好きなの。熱望してるんだから。最初にあたしに会ったときからそうなのよ」
「ね、そうでしょ?」
「はい……、はい奥様」
ジェリーは肩をすくめる。
「変わった人がいるもんだね」
「大丈夫よ、あたしたちの邪魔はしないから。……もし邪魔したら尻を蹴ってやるわ!」
「オーケイ。……じゃあ、何か飲む?」
「うん。……でも、この間抜け亭主に給仕させましょう。あたしたちはくつろいでいればいいのよ」
ジェリーはにっこり頷いた。
二人は居間にあるソファーに向かった。
私は台所へ行き、飲み物を探した。
きれいなコップが見つからないので、流しにある汚れた食器の中から1組のコップを取り出して洗った。
コーラと氷を入れ、居間に運ぶ。
コーラを一口飲んだジェリーは、「メアリーはすごくセクシーだって今話してたんだ」と言う。
「ありがとうございます、旦那様」
妻は満面の笑みを浮かべ、美しい顔が一層輝く。
「新しくできた美容室に行ってきたのよ」
「本当に素敵だ」
ジェリーは飲み物を床に置き、メアリーににじり寄って真紅の唇にキスをする。
彼女は笑みを浮かべ続けている。
やがてメアリーもコップを傍らに置き、キスを返しながらジェリーの首に手を添える。
ルージュと同じ真紅の爪がキラリと光る。
私は棒立ちのまま、愛を確かめあう二人を見続ける。
ジェリーは片手でメアリーの両足をすくい上げ、自分の膝の上に乗せる。
メアリーの足が床にあるコップに当たり、カーペットにコーラがこぼれた。
私は急いで台所へ行き、紙タオルを取ってきてコーラを拭き取った。
床に跪き、タオルをカーペットに押し付け、コーラを染み込ませる。
その間ジェリーの手はメアリーの脚を何度も上下にさする。
彼女の靴を脱がせ、むこうずねから膝、さらに内ももにかけて指を這わせる。
私は立ち上がり、新しい紙タオルを取るために台所に向かった。
ソーダ水を見つけたので、カーペットの掃除に使うことにした。
居間に戻ると、妻はソファに仰向けになり、ジェリーは彼女の両脚の間に膝を突いていた。
彼は妻の紺色のスカートをたくしあげ、香水のついた首筋を舐めたり吸ったりしている。
私はソーダ水のビンのフタを開け、カーペットに少し振りかけ、新しい紙タオルで汚れを拭き始めた。
「服を脱ぎましょう」とメアリーが優しく誘う。
ジェリーは彼女の首筋をさらに二、三度舐めてから、「うん」と応じた。
ジェリーはシャツを脱ぎながら床の私を見下ろす。
「あ、ちゃんと始末してくれたんだね」
「はい旦那様」
彼が満足したようで私は嬉オかった。
メアリーのブラウスの前が開き、白いレースのブラジャーがあらわになっている。
スカートの留めを外しながら彼女が言う。
「こいつは有用な召使いよ。下男とか下僕とか、その類いね」
「そうなんだ。……じゃあ、バスルームが汚れているから掃除しといてくれないか?」
「はい旦那様」
スカートを下ろしていたメアリーが含み笑いする。
ジェリーは靴と靴下を脱ぎ、さらにズボンを脱ぎ始めた。
「ついでに台所の洗い物もやっといてくれ」
「はい旦那様、喜んで」
ジェリーは笑いながらメアリーの方を向く。
「彼、何でもやってくれるんだね」
「そうよ」
ブラジャーを外しながらメアリーが言う。
「女を満足させることだけはできないけど……」
二人は快活に笑った。
「それは好都合だ」とジェリー。
羞恥心でくらくらしながら、ビンと紙タオルを手にして私は台所に向かった。
再び居間に戻ると、息を飲むような光景が目の前にあった。
ジェリーと私の妻メアリーは全裸になり、向き合って抱きあっている。
二人の体は前後にゆっくり揺れている。
メアリーの頭はジェリーの胸に預けられ、彼の両手は彼女の背中の腰のくびれで結ばれている。
まるでダンスをしているみたいだ。
ぴったりくっつきあった二人の裸体は、窓から差し込む光を受けて完璧な美しさを見せている。
この光景を脳裏に焼き付け、私はバスルームに向かった。
掃除用具を探し出し、紙タオルでバスルームの床を拭き始めた。
足音がしたので見上げると、ジェリーが妻を寝室に引き入れるのが見えた。
寝室とバスルームを隔てるドアが閉められ、数分後にドアの向こうからうなり声やうめき声が聞こえ始めた。
汗だくになってバスルームを掃除し、30分ほど経っただろうか。
ゴム手袋をはめて便器をこすっていると、寝室のドアが開いた。
ジェリーが裸のままバスルームに入ってきた。ごみ箱に何かを捨ててから私の方に近づく。
「ちょっとごめん」と脚で私をのかせた。
巨大な一物を手にして彼が放尿するのを傍らで見た。
尿の一部が便器からはね飛ぶ。
あとですぐに掃除しなければ……。
ジェリーは放尿を終えてペニスを数回振った。
そして便器に水を流し、手を洗い、寝室に戻った。
残された私は、便座と床に飛び散った尿を、丸めたトイレットペーパーで拭き取った。
拭いた紙をごみ箱に捨てた。
そこにはジェリーが捨てたコンドームが入っていた。
新たな屈辱感が体中を駆け巡る。
私は手袋を外し、ぬるぬるとしたコンドームを拾い上げた。
自分のペニスでは考えられないほどゴムが伸び切っている。
ドアがまた開き、妻がバスルームに入ってきた。
コンドームを手にした私を見て少し驚いた様子だが、すぐにニヤッと笑った。
「あーら、プレゼントをもらったのね。ジェリーは優しいわねぇ」
メアリーはすぐに鏡写りを気にしだした。
髪はもつれ、メイクもすっかり崩れている。
それでも彼女はとても優美に見える。
「おしっこするから出ていって」
「はい奥様」
私はコンドームをごみ箱に戻してバスルームを出ようとした。
「ちょっと」とメアリーが呼び止める。
彼女はごみ箱からコンドームを指先でつまみ出した。
「おみやげに取っておいていいわよ」
私が差し出した両手にコンドームを落とし、妻は手を払ってバスルームのドアをバタンと閉めた……。