2005年1月4日に浩一様にご投稿いただいた作品です。ありがとうございます。Ashe
「ザ ラストワルツ 2」 作:浩一

僕は貴子のしていることを知ってしまった。知らないでいたことが、かろうじて二人を繋いでいた細いロープだったのかも知れない。そして僕は、その日、貴子との関係を繋ぐ細いロープを、自ら断ち切ってしまった。

 その夜遅く、貴子からサヨナラゴメンと携帯のメールに入った、たった1行だけの短い別れの言葉。僕にはこんな終わり方は想像も出来なかった。それから何度も何度も貴子に掛けても、携帯は電源が切れたままで、メールも返信がなかった。

 自分はなぜ、分かっていながら貴子を追いつめるように、一緒に出かけようと言ったんだろう。押さえきれなかった自分の心。嫉妬なのか…!それともジェニィーや和恵のこと…。

 僕は見ていた。自分を避けて慌てるようにして部屋を出た貴子が、その車に乗り込むところを…。マンションの裏手から、貴子を横に乗せた古年式の高級乗用車が走り去った。マフラーを取り替えたあの独特の音。窓には濃いめのフイルムが張られ、車内は見えないが、貴子がドアを開けた時、垣間見えた運転席の男は、見るからにヤクザのような若い男だった。

 なぜ…!貴子を追いかけ、隠れてまで確認したのだろう。分かっていたことなのに、もう貴子は他の男と別の世界に生きる女になっていた。僕は未練たらしい自分が嫌になった。

 貴子が働きたいと言う少し前から、失業した自分の負い目かも知れないが二人の関係がおかしくなった。

「浩ちゃんは急いで働かなくてもいいの、わたしがいっぱい稼いでくるから、大丈夫よ変なことはしないし、お金が貯まればすぐにやめる。約束は守るから、浩ちゃんはわたしが踊るの上手なの知ってるでしょ」 貴子はそう言って働きだした。

 僕は胸が張り裂けそうな自分の気持ちを抑えるしかなかった。貴子はショーガールとして人前で肌をさらすんだ。あのストリップダンスを大勢の男の前で踊るんだ。

 マンションのローンの返済があり、この不景気に三流大学出身の自分になんて、そう給料の貰える条件の良い仕事はなかった。貴子を裏切るようで気が引けたが、やはりジェニィーの誘いに応じて新しい事業を始めれば良かったように思えた。

 働きだした貴子の突然の流産、優柔不断の自分が情けないと思った。当たり前だ。大事な時期に貴子にきつい労働を強いてしまった。自分は、ホントは偽善者なんだ。いいよと言いながら自分の子ではない貴子のお腹の子に、普通の父親のような気持ちにはきっとなれなかったんだ。その報いで病院のベッドで苦しむ貴子。もう子供を持てない身体にしてしまった。

 退院後の貴子は毎夜のように出かけ、帰りも深夜から未明になった。最初は起きていて貴子を迎えてたが、ある時から貴子が嫌がるようになり、寝て待つようにした。寝て待つといっても眠れる訳もなく、そんな時、自分が考えることなどろくでもないことばかりだった。

 男達の前で妖しく踊り、衣装を脱いでいき女の奥底まで見せ、好色な男達に抱かれた貴子の性交場面を想像し鼓動が早くなった。貴子が他の男の抱かれるなんて、僕にはいつまで経っても平気にはなれない。妄想は限りなく膨らみ、身体の中心が熱くなり、僕はその固くなった物を握り、高鳴りを押さえる為には毎夜に数回に及ぶ自慰行為しかなかった。

 換気用の小窓をすかし、外の音を聞こえるようにしていると、貴子を送ってくる車の、あの独特の排気音で帰りが分かった。

 回廊にコツコツと響くハイヒールの足音。静かにドアを開け、貴子はまず最初に必ずといってシャワーを浴びる。もう東の空が白みかける頃、リビングで片肘ついて水割りを飲む貴子をそっと覗いた。何か声をかけたいが、お互いがさらに気まずくなる。僕には貴子を見守ることしか出来なかった。

 そんな毎日が続く、貴子の携帯に男から掛かる電話。隠すように見るメール。身なりも、金の掛かった派手な物になり、出かける時はステージ衣装そのままなのか、男を挑発するエロティックに肌を露出させた格好で出かけた。ショーガールだと貴子は言うが、男の送り迎えがあって、不定期でどこで働くか分からないなんて、そんなのあるのだろうか、確かめるのが怖くて、僕は貴子には何も言えなかった。心の中で貴子への疑惑がどんどん膨らんでいった。

 疑惑が決定的になったのは一月前から、パソコンに送りつけられたメールだった。メールには本文がなく添付ファイルに、何枚かの貴子のすべてを露わにした写真と、あの時の男に抱かれた写真があった。写真に写る男は隆々の肉体を持った白人で、股間に反り返る巨根と戯れる貴子を自慢げに写させ、何枚かは貴子の中に挿入していた。僕にとって一番ショックだったのは最後の一枚で、貴子の中から流れ出る精液を撮していた。

 やはり貴子は男に抱かれていた。心は乱れたが、その感情を抑えつけた。貴子にはある程度そういう自由を認めていたんだし、写真もいつの頃のか分からないからと自分の心をごまかせて、僕は写真をパソコンからは削除した。きっと誰かが何かの目的で送りつけてきた物に違いはなかったが、貴子には黙って心の奥底にしまっておいた。

 2通目のメールは、その2週間後だった。MPEGファイルに貴子を盗撮したムービーだ。間違いなくあの日の出来事だった。紅い色が好きな貴子には珍しく、あの日の貴子は男の好みなのか黒いシックなワンピースを着て出かけていた。ホテルのラウンジでカクテルを飲む貴子と白人男の後ろ姿。貴子が甘えるようにその男に寄り添い、まるで恋人同士のように見えた。貴子は気づいてはいないが、その男が隠し撮りを仕組んでいたのは確かだった。

 白人男と部屋に入る貴子。室内の隠しカメラに変わった。男の前で黒いワンピース姿の貴子が踊っている。男を誑かす妖しげな流し目で男を見つめ、尻をくねらせ、悩ましげに踊る姿。たった一人の観客のための貴子のストリップショー。貴子が本気でその男を求め、その男を喜ばせようとしているのが僕にはショックだった。踊りの最後に、黒い下着姿の貴子が男の服を脱がせ、弓状にそそり立つ男の物を口にした。金髪の股間に隆々とした薄ピンクの太い肉棒を貴子の紅い唇がなめ吸っていた。

 そして貴子の方から積極的に男の手を引きベッドに倒れ込んだ。唇を重ね抱き合う二人の手の動き、唇を重ねながらも男の手が貴子の残された下着を脱がせた。男と女が本気で求め合う、そんなSEXがモニターの小さな画面に再生されていた。微笑みかける貴子の顔が、男に抱かれた腕の中にあった。

 そう貴子が自ら進んでその男に身を捧げてた。抱き合いながら最後の瞬間、男の名を呼び、幸せそうに身を震わせ男の精を受け入れてた。その白人が貴子の愛人で、ただの遊び相手でないことは確かだった。

 何が悪かったのだろうか、貴子の心はもう僕から離れていた。お互い肌を合わすこともなく時が過ぎていった。

 そして貴子がいなくなる1週間前に届いた3通目のメ−ル。URLだけがあった。やはり送信元もはっきりしない物だった。リンクを開いてみればタイトルはTOKYOLADY 、英語版のページでトップページに何人かのエロティックな衣装を着た日本女性の写真があり、その中に大きく貴子も写っていた。貴子の写真をクリックすると、サムネイル画像の中に最初に送られた添付ファイルのヌード写真があった。英語をたどりつつ読み進めたら、貴子が今、どんな仕事をしているか分かった。TOKYOLADYという、外人相手の高級ESCORTクラブで、今一番人気のある、1時間1500ドルを稼ぐ女だった。

 鈍感な僕にも、その英単語を読まなくとも、貴子がショーガールでないことなどすぐに分かった。Bare Back Blow Job…Porn Star Experience …Full Service …。

 貴子が外人客相手の売春をしていた。それも超高級の女として……。

 そうだ貴子の持って帰ってきたお金は、貴子が身体を売って作ったお金だった。マンションのローンを払い生活費にも充てた。なんて事だ。どうしたらいい…!どうしたらいいんだろうか…。悩み抜いても答えは出せなかった。何か言えば貴子がいなくなる。僕にはそんな気がしていた。

 そしてあの日から、あの排気音は聞こえないし、貴子はこの家に戻ってこなかった。2年にも満たない短い暮らし、突然にやって来た別れ、2日、3日、一週間と貴子からは、なにも連絡もなく、僕には眠れない日々が続いた。楽しかった頃の貴子との暮らしが思い出される。出会った時から始めてのデート、身内のいない貴子と、故郷に母がいるだけの自分。会社の友人達だけが祝ってくれた結婚式。二人だけの生活に貴子がどうしてもほしいと言った贅沢すぎるマンション。再婚した母に無理を頼んだ。今、広いリビングに一人、憔悴しきった自分が憐れに思えた。

 この一週間、僕はOutlookを毎日、何度も何度も開けてばかり、誰かと分からないメールだけを待っていた。やはり2週間目だった。メールが届いていた。ただ一つの貴子への手がかり、焦る気持ちでURLのリンクを開けた。Cute Japanese Babe というポルノ映像のページが出てきた。

 僕はたくさんのサムネイルの女の中に貴子を見つけた。震える手でクリックすれば小さな3枚のサンプル写真があった。

 貴子かも知れないと思ったのは最初の1枚だけで、螺旋階段を下りる超ミニに下着を見せた女が映っていた。2枚目、3枚目は性交の写真で、局部だけがアップになっていて、貴子じゃないかも知れないと思いたかった。

 サンプル画像をクリックすれば、女がすぐに貴子であるのが分かった。データを読み込む間に、動かないが貴子の姿をメディアプレイヤーが撮してた。画像が動き出す、貴子が階段の踊り場で踊る姿で、ズームアップさせたカメラは乳房がほとんど露わな姿で撮しだした。カメラはエロティックに尻を振る貴子の股間でアップに映し、ワザと股間にパンティをくい込ませたり、緩めてチラリと見せたりと、20秒ほどの卑猥な映像を再生した。

 サンプル2は、貴子がソファーに横たわる黒人の勃起状態のペニスをなめ、後方からもう一人の黒人男が貴子の中に打ち込む性交と、二人が黒い肉太の男性器を貴子の中に同時挿入している物だった。あんなにアナルセックスを嫌がっていたはずの貴子が、アヌスに挿入された肉太の黒い男性器を突き動かされ歓喜の声を上げていた。

 サンプル3は、刺青を入れたヤクザ風の日本人が、犬のような貴子の腰を抱き、後ろから犯していた。あの時の車を運転していた男だった。背中一面に拡がる朱と青墨色の竜の刺青の尻を振るわせ、刺青男が貴子の中に打ち込んでいた。貴子の尻穴から流れ出る精液が垂れるショット。刺青男が精液をカクテルグラスに受け、グラスから口に流し込まれた貴子が、ポルノの淫乱女にふさわしい笑顔で美味しそうに飲み込んでいた。

 貴子は、いかがわしいポルノムービーの女になっていた。僕はパソコンのコードを引き抜き壁に投げつけた。こみ上げる物が押さえきれず、一人だけの部屋で恥ずかしげもなく声を上げて泣いた。

 誰が送りつけたのか分からないが、貴子と二人の連絡用のこのアドレスを知るものは少ないし、少なくとも外には公開していないアドレスだった。おそらく貴子の新しい相手が僕に送ったシグナルなのだろう。

 相談する相手もなく悩み抜いたあげく、かかってきたジェニィーから電話に救いを求めていた。男として、感情を抑える努力をしていたつもりだったが、堪えきれず嗚咽が漏れた。


つづく
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