2008年5月13日に浩一様にご投稿いただいた作品です。ありがとうございます。Ashe
「終章」 作 浩一


俺の名前はマリオ、ついこの間まで、あるポルノサイトのビデオ係をやって
いた。いい女とシチリアワインをことのほか愛する男だ。最近、妙にツイてき
やがった。金と女は天からのまわり物っていうが、ツキの始まりは、俺のダ
チ、ジェフのヤツが、龍神会というジャパニーズヤクザと知り合ったことだ。
なにを思ったのかヤツらが、ジェフのことをマフィアの大物と勘違いしやがっ
て…。

 あの時の俺たちゃ頭にきてた。黒人や、モニカねえさんの店の元ストリッパ
ーが、俺たちをこけにして、この街の白人社会を牛耳ろうっていうのが許せな
かったんだ。ジェニィーという女は、元NFLのプレーヤーだった、黒人のボ
ブの野郎と夜逃げ同然にこの国へ流れてきた。それがモニカねえさんの引きを
いいことに、いつか、この街一番の事業家だってよ…ふざけんじゃねえや。

 ジェフが、龍神会のカジノバーにボブを誘ったんだ。女の甘言、ギャンブル
に、ボブの野郎は夢中になり、ヤツは会社の金に手を付けた。気がつけば50
万ドル以上の借金をこさえた。相手はヤクザだ。ジェニィーにも見放されたボ
ブの野郎に、ジェフのヤツは1万ドルを持たせてトンズラさせた。50万ドル
の借金だ。ジャパニーズヤクザの取り立てに、さすがのジェニィーも会社を潰
したんたんだ。

 問題は貴子って名のボブの女だった。たった1万ドルぽっちの肩代わりで、
ジェフのヤツは貴子って、すげえ極上女を手にしたんだ。ジェフのヤツはすぐ
に女を堕とした。さすがの女たらし野郎だぜ。俺もあの貴子って女をいただい
たが、まれに見るスーパーボディだ。世の中、あんないい女がいるんだ。俺も
神様を信じることにするよ。

 身長は5フィート5インチ、34DDはあるオッパイに22インチの細腰、
キュートな34インチのヒップに、おそらく信じてはもらえねえだろうが、ミ
ス・ヨコハマっていわれてもおかしくないくらいの、超いい女なんだ。年齢は
27、結構くってるが日本人の柔肌で、若く見えるからポルノサイトなら19
から21ってサバ読むとこかな…。

 あれだけのいい女でも、ジェフみてえなジゴロにかかりゃ哀れなもんさ。す
ぐにヤツは、貴子をエスコート嬢という外人客相手の高級売春婦にして荒稼ぎ
だものな。ところがよ、人間の欲ってキリがないっていうのはホントだな。ジ
ェフのヤツ、貴子のあまりの稼ぎの良さによ、割を払うってのも惜しくなっ
て、とうとう自分の女にしちまった。もともと亭主持ちの人妻だ。それをお構
いもなく、亭主にゃ貴子とのハメ撮り写真を送り付け、辰というヤクザを使っ
て別れさせる荒療治だ。つくづくジェフってのは悪いヤツだと俺は思うよ。

 何はともあれここまでは順調で、すべて上手く運んだが、たった一つジェフ
の誤算は、貴子って女の底知れねえ性欲だ。あれこそニンフォマニアっていう
のか、多いときゃ一晩に三発や四発くらいは、ジェフにせがむんだと、とにか
く生出しの、あの感触が大好きで避妊具が嫌いって女だ。まあ、手に入れた時
から、ボブとの不倫のガキを妊娠してたくらいだかんな。

 無理やり貴子に堕胎させた結果が良かったのか、ドクターが言うに、避妊リ
ングを子宮に入れたみたいによ、あの女は受精しても着床しない体になったん
だ。あの女が不妊の事実を知ってからというもの、もう仕事以外はすべて生出
しだ。仲間の中にゃ、早漏だ弱いだと貴子に振れ回られ、もう顔も見たくない
ってヤツもいる。簡単に誘ってえらい目にあった男は数知れずだ。ホントにポ
ルノをやるのが天職って女だと、俺は思うよ。

 まあ、女と金、運という物は、そういうもんだが、とうとう俺にお鉢が回っ
て来やがった。貴子の客で藤田俊和って男、名前など知らなくても、あのTK
銀行を再建させた、フジタグループの会長といえば誰もが知っているよな。米
国相手のビジネスじゃ若い頃から達者な男で、マフィアのアンドレッティ一家
と親しく、ロスじゃ、金に証せてブロンド女を漁りまくった男だ。ジェフは不
満だったが、そんな大物が貴子に売春はさせるなと、俺たちのポルノ映画造り
のスポンサーなったんだぜ。

 さぁ…いよいよポルノ屋のマリオ様の出番だぜ。ジェフのヤツは、あの女に
手を焼き、金さえ入れば実のところキレたいらしい。後は俺にまかせろって、
こき使った後にゃ、貴子を藤田の爺様に押しつけてやるさ…!。資金は有る
し、黒人に乱交の生出しだ。さあ、いよいよ最高のロケーションを求めて、マ
ラヤ半島の白亜の海岸だ。やるぜ…!俺は、あの貴子って女と選りすぐりの黒
人で、最高のポルノを作ってやるぜ。



 貴子はマリオという映画デレクターから誘われた。貴子の主演でムービーを
撮りたいといわれた。マリオは知的でビジュアル関係にくわしく、若くしてハ
リウッドで嘱望されたセレブだと、ジェフからホテルのVIPラウンジで紹介
された。マリオの誘いに自分がハリウッドスターになれる。貴子はすぐ目の前
に広がっているかのような、ハイソサェティなセレブの暮らしをあこがれ、あ
の時、ジェフの巧みな言葉の誘いに乗り、一番大事な物をなくした。

 最初に貴子がマリオに抱かれたのは、浩一には黙ってエスコート嬢の仕事を
始めたばかりの頃だった。いきなりアナルSEXまで求められ、断ったのがジ
ェフを怒らせた原因だった。スターの道を目指した以上、仕事に対するこだわ
りが不足していたのだと思った。女が社会へ進出し、一人前の仕事をしようと
すれば、やはり逃げたくなるような嫌なことでも、こなさなければならないの
は当たり前のことだった。貴子はマリオにそのことを教えてもらった。

 マリオが追い求める映像芸術は、貴子にも共感出来る素晴らしいものに思え
た。ポルノムービーとはいえ芸術作品だから、マリオは妥協など許さない。舞
台はアンダマン海に浮かぶプーケット。貴子が演ずるのは東洋の巨乳美女の舞
姫。民族楽器の音に衣装を脱ぎ、舞う裸体の貴子を襲う、野獣のような屈強の
黒人二人。貴子と選りすぐりのモンスターコックの黒人が、繰り広げる異人種
間性交。マリオの求める究極はアナル、そして膣内への生出し、顔面へのスペ
ルマシャワーだった。

 特に目の肥えたポルノ鑑賞者はごまかせない。だからマリオの演出は奇をて
らわない。マリオはいくら黒人の男性器がデカくとも、持続力も無く勢いのな
い者には容赦なかった。固く膨れた黒人の紅黒い亀頭から、ブシュブシュっと
勢いよくスペルマを噴き出し、女優の顔や裸体を白く汚す。男の射精力それが
芸術なんだ。求めるもの、それは女優に対しても同じだ。自身、彼はポルノ界
の黒澤明と自負していた。だから貴子を見つけた時、すぐに主演と決めた。

 マリオの部屋のモニターに映し出された、編集前のポルノ映像を、貴子はマ
リオと二人して見ていた。映像編集という芸術的仕事に、厳しい視線で見つめ
るプロの目。横にいても貴子にはそれが分かったし、無言でモニターを見つめ
るマリオが頼もしく思えた。撮影されたばかりの貴子と黒人の絡みのシーン。
貴子の吸う唇の動きに、黒人男優の30センチの太肉が前方に反り返ってい
た。男優の黒い手が貴子の白い尻を抱き、自らの身を後から重ねた。ズームア
ップされた紅黒い黒人の亀頭が、貴子の無毛の襞肉を押し広げ、ズブリと挿入
された。

 アンダーカメラが撮す黒人と貴子の結合部、黒色の太肉が動く、ヌチャヌチ
ャと音を立て、紅ピンクの膣肉の中に見え隠れしていた。貴子は等身大にも見
える超大型のモニターで、黒人男優と自身の性交シーンを見ていた。マリオに
教えられたとおりの猥雑な英語のセリフが聞こえた。下手な演技だと思った。

 蒸気機関の拍動を思わせる、引き込まれるような黒人男優の激しいピストン
の打ち込みに、引いていたカメラが貴子の顔をアップした。貴子は、自身のな
んとも言えぬ上気した表情を見た。いつかモニターの中の貴子がもらす、気を
やるときの真の声。見つめる貴子の息が上がり、紐パンティの小さなクロッチ
が、内面からジュヌリと濡れ、剃り上げた陰唇にねとりと貼り付き、貴子は下
半身の奥底から震えた。貴子はポルノを演ずるということが、本質的に分かっ
た気がした。

 誰でもいい、したい。本気で男としたいと思った。マリオの手が貴子の肩を
抱いた。貴子はマリオに身体を擦りつけ唇を求めた。ジェフの愛人だという噂
が広がったのか、最近では、スタッフ内では誰も貴子を抱く男はいない。撮影
の後の欲求不満の肉体に、少しのお酒。ウズウズとした気分を晴らすかのよう
に、貴子はマリオの部屋で男の肉体を求めた。

 陽に焼けた広い背、焼け残した白色人種の白い臀部が、形良い貴子の尻を激
しく突いていた。汗ばみ,手のひらに吸い付くような貴子の肌、背に被さるよ
うにしてマリオは、紡錘形に垂れ下がる貴子の形良い巨乳を嬲った。モニター
に映したバックから貴子を貫く黒人の動きに、揺れる豊満な乳房をもてあそぶ
黒人の黒い手に、重ねるようにマリオは貴子を後から責めた。ときには貴子の
桃尻を打つ黒人の手に、高ぶる声で応える、タカコという名の日本人ポルノス
ターを育てたんだという自負。ジェフさえ持てあます、この淫乱女は一級品だ
と、マリオは改めて思った。

 貴子は男に腰を持たれ後から責められた。白人の性器が菊蕾の括約筋を貫
く、天にも昇るようなアナルSEXの快感。目の前には大型モニターが映し出
す鏡の中のような光景、違うのは相手がマリオの倍くらいの男性器を持った、
屈強の黒人男優だということだった。

 サラウンドサウンドのように、幾重にも聞こえる貴子の喘ぎ声が、更にマリ
オの性感を高ぶらせた。大型モニターの中で、黒人がガマン汁を垂らせ、貴子
の中から引き抜いた。シコシコと扱く間もなく、紅黒い膨らみの噴出口から、
貴子の顔に白いヌルミが次々と飛び掛かった。精液に顔を汚した貴子が、垂れ
出る黒人の亀頭を頬張っていた。
『 フン…あいつはダメだ…!早すぎる…』
同じ柔肌の尻を抱き、マリオは、あのデカチンポの黒人男優に勝った気がし
た。

「どうだァ…タカコ、俺のアナルファックは…あの黒人よりいいだろが…ええ
…!」
「ああっ…マリオ…!ああ…あんたがいいよう…ああん…突いて…もっとお尻
を突いてぇ…」
貴子は悦びに叫んでいた。マリオにとって貴子の喘ぎ声が更に性感を高ぶらせ
た。
「ああ、いいよう…突いて…突いてよぉ…マリオの…固いおチンポちゃんでぇ
…」
「そうだ…お前の尻にいっぱい出そうな…」
最後、マリオはテーブルに、貴子に手を付かせ後から責めた。
「どうだ…どうだ…どうだァ…!」
そのぶつけるようなファックに、さらに狂ったように声を上げた貴子だった。

 マリオのついの動き、貴子のアナル粘膜に男の体温と同じ温もりが広がっ
た。マリオの射精に反応し、貴子の菊蕾の括約筋が締まった。マリオは気持ち
の良さに呻いた。白色人種の男根の奥に溜まっていた物が、堰を切ったように
噴き出した。マリオは自身の精液を、貴子の肉蕾の中に射出する快感に震え
た。その時、ロックされたはずのドアが開いた。
「タカコ…!お前って女はよ…!この淫乱が…」
貴子の名しか聞き取れない。早口の英語で怒鳴ったのはジェフという男だっ
た。
「クゥ…ククッ…ウッ…!今よっジェフ…!だ、出してる最中なんだァ…」
部屋に飛び込んで来るとしても、なんて間の悪い男なんだ。身を反らせ射精に
呻くマリオと、お尻でつながったままの最中に、ワケも分からず振り向いた貴
子だった。
「悪いな…この女から誘われたんだ…!いや…いい、いいやり心地だぜ…」
何度か気持ちよさそうに腰を動かした後、マリオは貴子の尻から離れた。射精
後のヌルミに濡れ光る白人の男根が抜け、糸を引くように貴子の肉蕾から白い
ねばりが垂れ出た。

 嫉妬心に狂ったのか、演技だったのか貴子にはよく分からなかった。ただ、
ジェフに何度も尻を撲たれ、ソファーに押し倒され舐め回された。マリオとの
性交の余韻が残る貴子の肉体はすぐに反応した。男の粘つく唇、ベロベロと舐
める舌、柔肌を垂れる唾液。首筋から耳たぶ、脇の下から乳房、ヘソ下から無
毛の肉丘、陰唇のビラビラからクリトリス、しつこいくらいジェフに感じるポ
イントを唇と舌で吸われた。貴子はもう狂ったように声を立てていた。

『あ〜ああ〜ジェフのヤツ…!あんなとこにキスマークを付けちゃよ…続きが
撮れねえじゃねえか…!それにしても、ジェフのヤツのマンコの吸い方よ…す
げえ…!貴子のヤツ、気をやりっ放しじゃねえか…』
ジェフの唇や舌の動き、確かに参考になった。マリオは、貴子のクリトリスの
肉芽が、日本人にしてはでかいワケが分かった気がした。

「ああっ…そこぉ…舌を丸めて吸ってぇ…!ああんもう…いきそうだよ…」
「そうだ…淫乱の浮気女は、少しゃガマンもしなきゃな…」
「ああん…行きそうなんだよ…もっと強く吸ってよ…ああっ…やっぱ、ジェフ
のおチンポがほしいよぉ…」
「ヘヘヘ…そうだよな…お前は、男をガマンできっこないよな…じゃ〜後でい
っぱい入れてやろうなぁ…浮気の代償だァ…お前にゃ今後、ノーギャラだぜ、
いいな…!」
「ああ…お金なんていらないよジェフ…!わたしのオマンコに、その固くなっ
たおチンポを入れてよ…!」
「そうか…金なんてどうでもいいか…お前は俺の物だものな…そうだ…お前の
クリトリスにリングを付けて、俺とのマリッジリングにしようか…」
「いいよぉ…なにしていいよ…忘れたいんだ…なんもかもさぁ…ああジェフ
…!いいよ…約束する…あんたの女になるよ…だからさぁ…」
貴子にはそれもいいと思った。それより早く、固く成長したジェフの物を入れ
て欲しかった。浩一と別れたからには、もうどうなろうと貴子にはどうでも良
かった。

『あ〜あ、あんなに女を焦らせてよ…悪い男だぜ…イタリア男なら悦ばせて
も、あんな阿漕なマネは出来ねえな…』
見てるとまたやりたくなった。マリオはこの日の撮影をあきらめ、もう一度、
貴子の尻をいただくことにした。



 『淫乱か…』男達の侮蔑の言葉が耳に残っていた。シャワーで、舐めまわさ
れた全身のひからびた男の臭いを流し、簡易ビデで体内を洗浄した。洗浄湯に
まみれ肉蕾から噴き出すのマリオの黄色みを帯びた精液。膣から垂れ出たジェ
フの精液も太腿を伝った。ジェフという男の本性を見た気がした。女をたらし
込むしか能がない。金には汚く、女を従属させねば気がすまない。胸間から乳
房、陰部の剃り跡の膨らみに付けられた、これ見よがしのキスマーク。背の刺
青、乳首に着けられたピアス。クリトリスに付けられたリングが、この男との
マリッジリング。
「バカぁ…貴子のバカ…」

 貴子は鏡に映るもう一人の自分を笑った。男達との愛情のかけらもない変態
的な性行為に、一時の肉欲は満たされても、酒でも飲まなきゃやりきれないと
思った。乳首のピアスを外したが、それでもクリトリスのリングは外せなかっ
た。あんな男と思っても、今の自分にはかけがえのない男、別れたはずの浩一
への罪悪感が貴子を襲った。 



  日没後のプールサイドバーから見える椰子の梢に、アンダマン海を航行する
船舶の航跡が、月明かりにキラキラと光っていた。

 貴子は夜の海を見ていた。何杯目かのロックのグラスを持ち、ひとり飲む貴
子。貴子は今、酔っているのか、いないのかさえ分からなかった。さっきまで
男達に抱かれていた。ジェフという男の、それも所有物なら当たり前のように
され…。男達の精液にまみれ、悦びの声を上げてた自分が、この上なく恥知ら
ずな女に思えた。

 エスニックな雰囲気の南国のリゾートホテル。開放的なラウンジバーだっ
た。細いスパゲティのような肩紐の、超ミニのサマードレス、下着といっても
いいような紅く透けた生地に、ヒモだけの紅パンティもあらわな貴子の姿が、
どこからでも目を引いた。宿泊客の男達が貴子の豊かな胸元に目をやる。場違
いに露出した胸元から見える、これ見よがしに付けられた胸間から乳房へのキ
スマーク。シャワーで流せぬ情事の痕跡をあからさまに、貴子は酒を飲んでい
た。

『あんなヤツらとなんかに…!クソ…クソッ…!あいつらみんな死んじまえば
いいんだ…!なにやってんだろ、あたし…!なんでこんなことになったんだろ
…あたしなんで、浩ちゃんに離婚届なんか書いたんだろ…!』
どこに向けていいのか分からない苛立ち、抑えきれない浩一への慕情が、貴子
の心を重くしていた。

『あたしなんか、そうだよね…!そうだよね、あたしなんかが、浩ちゃんと一
緒になんか、いちゃいけないんだよね…。でも…浩ちゃんが嫌いになったんじ
ゃないよね…!なんで…なんで浩ちゃん…離婚届に名前なんか書いたのよぉ
…』
辰の手で戻された1枚の離婚届に押された印章、見なれた浩一の筆跡に、貴子
はただ涙があふれそうで唇をかみしめていた。
『あたし…浩ちゃんに捨てられたんだ…』

 あんなに愛してくれた、すべてを許してくれたはずの浩一が、離婚届に名を
書き、判を押したという事実。どこかに浩一ならと甘えもあった。いたたれぬ
思いに、浩一の面影が貴子の脳裏から離れもしなかった。逢いたくても会えな
い我が身が、貴子をいっそいらだたせた。
「くそっ…!」
投げつけたグラスの割れる音が響いた。周りの視線が貴子に向かった。
「なに見てんのよぉ…!あたしを、淫乱の売春女だかなんだか思ってんでしょ
…見せ物じゃないよ、このバカァ…!」

 まわりの好奇な視線、貴子がどんな女なのか、ホテル中に知れ渡っていた。
海岸沿いのコテージで、ポルノの撮影をしているというのは、ホテルでは公然
の秘密で、従業員や長期滞在者を介して知れ渡っていた。
「くそぉ…!あたしをバカにすんじゃないよ…!あたしのこと好きだったら別
れんじゃないよ…!なんでよ、なんでよ…浩ちゃん…!」

 氷が入ったアイスペールまで投げ捨てた。揺れる乳房の勢いで細い肩紐の片
方がちぎれ、背が広く露出した。肩から背に刺った、色鮮やかな牡丹の花が周
りにいた男の目に触れた。取り巻きや隙あらば貴子を口説こうとした男達が身
を引いた。一人酒に荒れ、貴子は豊かな乳房までを晒した。男達は興味津々、
遠回しに取り巻き、見つめる多くの視線。

「荒れているようじゃな貴子さん」
突然のやさしげな男の声がし、肩に男物のジャケットが掛けられた。見上げた
貴子の前に、和恵の父親、藤田が立っていた。

 藤田がその場を納めたのか、思いの他のチップをもらったバーテンダーが、
周りの男らを手で追うように帰していた。
「貴子さん…!大きな声だから聞いてしまったが、浩一君は、あなたの今を、
おもんかばったんじゃないかな…」
「なによ…小父さん、そのおもんがバッタってさ…!」
貴子は絡むように藤田に言った。
「フフッ…そうだね、貴子さんに変な言い方して申し訳ない。きっと浩一君
は、貴子さんの心中を察し、意義を述べることもなく、自ら身を引くように離
婚届にサインしたんだろうとね…」
「じゃ〜浩ちゃんは、わたしを嫌いになった分けじゃないの…!」
「そうかも知れんし…そうじゃないかも知れん…」
「もう…どっちなのよ…!小父さん」

「貴子さん、横に座ってもいいかな…」
「なによ…!あらたまってさぁ…小父さんがジェフ達の金主なんでしょ…!」
貴子はバッグを置いてた隣の席を空け、藤田が横に座った。さっきのチップが
よほどの高額だったのか、バーテンダーが慌てて二人のグラスを作った。
「フンだ…!ここにゃ、いけ好かないバーテンに、まわりは退屈な男ばっか
…」
貴子には乱暴にグラスを置いたバーテンダーを睨んだ。
「フフフ…貴子さんは、年寄りの、酒の相手は退屈かな…」
「いいよ、小父さんとなら日本語で話せるから…」
「じゃ、貴子さんのお言葉に甘えて、乾杯と行きますかな…」
「大金持ちの、和恵んちの小父さんおごりだぁ、まぁ仲良く飲もう…乾杯ぃ
…!」
大きく手を上げたその動作で、もう片方の肩紐までがプツンと音を立てた。

 肩紐は両方ちぎれ、薄いレース地のサマードレスの胸がダラリと垂れ、貴子
の乳房がモロ見えた。
「ふふふ…やっちゃったよ小父さん、完全にオッパイ見えちゃったね…」
プリプリとした豊かな乳房が、藤田の前で揺れていた。さっきから気になった
白い乳房の、小さなアザのような物の正体がよく分かった。目のやり場のな
い、ぎこちない気分。覗き込むバーテンダーを、藤田は目で追った。

「ああっ、やだぁ…!小父さん、なに見てんのかと思ったらオッパイのキスマ
ーク見てたんだ。恥ずかしいなぁ…したってバレバレだねぇ…」
片手で持ち上げた乳房に付いた、落ちもしない暗紅色の染みを、貴子は手のひ
らで擦った。
「へへっ…やっぱ、落ちっこないよね…」
すぐ前でゆれる、たわわな乳房の方が藤田にはまぶしかった。
「ジェフが、さっきしたときいっぱい付けたんだ。キスマークくらい見えたっ
ていいよね、ねえ小父さん…!」
貴子は別にジェフとの性行為を隠しもせず、苦笑いの笑みを浮かべ、その量感
たっぷりの乳房を、両手で下から持って藤田に見せた。
「貴子さんは不思議な人だ。男との情事を話しても、その見事な乳房を披露し
ても、いやらしい感じが少しもしない」
「ふふふふふっ…やだぁ、小父さん…!それってわたしが恥知らずってこと
…」
「いや…!この場合、恥じゃなくてそれは羞恥と…」
言いかけてやめた。貴子が乳房をゆらし笑い転げていた。藤田の方が気恥ずか
しくなった。

 人の気配に藤田はカウンターを見上げた。グラスを拭くそぶりで貴子の乳房
を覗くバーテンダーの照れ笑いに目を合わせた。貴子という若い娘は、リゾー
トホテルのプールサイドバーで乳房を見せるより、男に付けられたキスマーク
の方が、恥ずかしいと感じるのが、藤田にはおかしくもあった。貴子が肩に掛
けられた、藤田のジャッケットのボタンを留めた。男物のジャケットから窮屈
そうな乳房の上半分があふれ出ていた。

 藤田は昼間、ジェフ達のスポンサーとして、ポルノ撮影の現場を初めて見せ
てもらった。二人の黒人との3P、貴子は人の物とは思えないくらい巨大な黒
人の性器を、前と後ろに同時に入れた変態的な性行為をカメラに撮させてい
た。藤田は、この貴子という娘は、もうポルノ女優として、自身の女性器や性
交場面を見せる方が、愛人に付けられたキスマークを見られるより、平気なん
だと可笑しくなった。

「フフフ、そうだ…若い魅力的な娘さんと酒を飲むのは久しぶりだな。うちの
和恵は、貴子さんと違って、私の酒の相手など絶対してくれんし…」
気詰まりの雰囲気を気遣ってくれたのか、藤田が自分の娘をぼやくように言っ
た自嘲する表情に、貴子は急に心が和んだ気がした。父親と酒を飲むのはこん
な感じかなと思った。
「ふふっ…そうだね…。和恵って、わたしと違ってさ…酒の席は嫌いだし、そ
れにさ、あの娘って、変に真面目すぎるとこ、あるじゃない…!下着の色は白
だとか、今時、耳に穴開けるピアスは嫌いだとか…」
「そうか…和恵がまじめすぎるのか…」
「ふふふ…小父さん、なによ…!そのにやけた顔。それじゃわたしが、不真面
目だってんのぉ…!そりゃ、確かにさ…パンティはTやYバックの紐パンしか
穿かないし、乳首にピアスしたり、クリトリスにもリングをしてるけど…」
「クリトリスにリングぅ…!」
思わず、藤田から声が洩れ出た。貴子を見る藤田の驚きの表情、その言葉の反
応にかえって貴子が慌てた。
「あっ…!ゴメン小父さん、クリトリスにリングって言ったけど、そんなびっ
くりしないで、クリトリスにリングを直接付ける分けじゃないんだ。だから…
クリトリスの剥けた皮のところにピアスの穴あけてさ、リングをクリトリス
の、んもう…!だからさ…もうほら、じゃぁ、見せたげるよ…」
貴子は、男物のジャケットを窮屈そうに摺り上げ、腰掛けたまま生足のヒザを
上げた。めくれた超ミニの裾から、紐パンティの小さな三角をずらせ藤田に見
せた。
「小父さん、クリトリスのリング見えたぁ…小父さんのジャケットで影になる
から見えないかな…」
カウンターの向こうから、バーテンダーがそぅっと気を遣いながら、わずかだ
がスタンドライトをかざした。
「もう、明かりがあるならもっとこっちを照らしてよ…!ホントに気が利かな
いバーテンなんだから…!」
貴子の声にバーテンダーが藤田の顔を窺った。苦笑いするしかなかった藤田だ
った。

 バーテンダーが照らす明かりの中に、めくれあがった裾の中、エメラルド色
の玉が付いたリングが見えた。貴子のクリトリスの肉畝に、ちょうどノーズリ
ングのように付いていた。
「小父さん、やっぱ見えにくいかな、もう少し足を広げるね」
貴子がさらに足を広げた。スタンドライトを手に持ったバーテンダーが身を乗
り出し、貴子の股間に近づけ明々と照らした。クリトリスのリングも、男に打
ちすえられたばかりの無毛の淫部に、充血した肉粘膜が白熱球に照らされよく
見えていた。
「小父さん、ほら、付いているのはフードみたいになってる皮のとこだよ。ジ
ェフはマリッジリングって言ったけどさ、あいつケチだからガラス玉なんだ。
これ付けたまま男とするとさ…けっこう気持ちいいんだよ…」

 藤田は、貴子という娘の陰部をまじまじと目の前に見た。性交後の恥毛のな
い陰唇は紅く、リングの付いた淫茎から剥け出た、人差し指の爪くらいある大
きな肉芽、ビラビラとよく発達した小陰唇が紅紫に充血していた。貴子は、覗
き込む藤田の視線を急に感じた。
「うわぁ…恥ずかしいよう…いつもはもっときれいな色だよ。小父さん、誤解
しないでね、こんなにオマンコの色きついの…さっきまで、あいつらといっぱ
いしてたからだよ…」

 藤田には和恵の友人で同じ世代の娘、貴子の男を迎入れる肉洞窟まで覗き込
んだ自分が恥ずかしくもあり、この開けっぴろげな娘が可笑しくもあった。
「フフッ…よく見せてもらって、ありがとうと言うのもなんだが…その…」
「ごめんね…小父さん、なんか無理にわたしの見せちゃってさ…」
「いいや、いや…!気取らない、若くてチャーミングな女性の隣に座って飲む
なんて、久しぶりに良い気分だ。それに貴子さんは人もうらやむ美人だからな
…」
「ふふふ…小父さんは、そうやさしく言って女を口説くんだ。向こうじゃ泣か
された女も、いっぱいいたって、モニカねえさんに聞いたよ」
「ハマのモニカさんか…!そうか、貴子さんは知り合いだったのか。確かにア
メリカ生活が長かったんでね、そんなこともあった」
「小父さんて、ブロンドの髪にこだわってたんだってね。ブロンドの女なら、
既婚者だってお構いなしだって、ねえさん言ってた」
「貴子さん、恥ずかしい限りだが、あの頃は、なんのてらいもなく金髪女性を
口説くことも出来た。金さえあればどんな女性だって、さすがアメリカだと思
った。若くして米国法人の社長になった時だ。新婚の秘書や亭主持ちだって、
どんな女だってすり寄ってくるし…」
「そうだね…あの頃の小父さんて、金に証せてジェニィーなんかを愛人にし
た、いけ好かない、お金持ちだったもんね…!」
「フッフッフ…いけ好かないか…!貴子さんにはまいりましたな」
「小父さんはなぜ、ジェニィーは抱いても、わたしを抱かないの…」
「フぅ…急にドキリとするようなことを言う貴子さんだ」

 藤田は、貴子の目を避け苦笑いにグラスを口にした。藤田には、貴子という
娘の時より見せる、酔ってトロンと見つめる目が、怖い気がした。
「小父さんだけだよ、ここであたしを抱かないの…。やっぱし、わたしの体が
汚れてるから…!」
「そ、そんなことはない…!ただ…」
「ただ…、どうしたのさ…小父さん…!」
「そうだな…ただ、人にはそれぞれ他人には言えん過去があってな」
「過去か…ふふっ…そうだね。小父さん…!わたしのお母ちゃん、なにしてた
か知ってる。ふふ…売春婦、それも最低のね…。わずかな酒代欲しさに、ホテ
ル代も無いような男をアパートの部屋に連れ込んでさ…。わたしも同じことや
ってる…バカだねぇ…!。わたしには、お父さんていないし、お母ちゃんの苗
字も名前さえ覚えちゃいないんだ」
「じゃ、安藤という姓は…?」
「小父さん、なんでわたしの旧姓知ってるの…!」
貴子が不思議そうに藤田の顔を見た。

 藤田には和恵が勤めた会社の友人というだけで、貴子を覚えていたのではな
かった。初めて会ったとき似ていると思った。貴子という姉と同じ名で、しか
も目元から鼻にかけての感じが亡くなった姉に似ていたからだ。
「小父さん、安藤っていうのはね、帰化したモニカねえさんが安藤真理子って
名乗ったから…。わたし、ねえさんの養女だから、それまでタカコ・アンドレ
ッティだったの、ふふふ…今から思うとさ、その方がカッコよかったかな…」
「そうか、貴子さんはモニカさんの養女だったのか…!それで私の悪行がみん
な、あなたにバレてたのか…」

「うふふ…そうだ、小父さんちへ行ったときだ…!あの時から、あたしの名前
覚えてくれてたんだ。うれしいよ…!」
また貴子の乳房がジャケットの胸でプルプルと波打つように揺れていた。
「ええ…よおく覚えてますよ…!初めて貴子さんに会ったときのことは、忘れ
ることは出来んな、なんせオッパイがこんなのでびっくりしたからな」
貴子の乳房がこんなに大きかったと、藤田は笑いながら手を広げ前にやった。
目を合わせた貴子が笑った。
「ふふふふふ…やだぁ…!小父さんて、やっぱし、あたしのそんなとこばっ
か、見てたんだァ…」
貴子が両肘を乳房の前でそろえるようにして笑いを隠した。藤田はその仕草に
ハッとした。口元を手で隠す笑顔が、明るかった頃の姉に似ていた。

「ねえ、小父さん…あたしを抱いてよ…!」
突然に真顔で藤田を見つめる貴子。一瞬の途惑いに、藤田は、この貴子という
娘が急に愛おしくなった。なにか記憶の奥底に秘めていた姉のことを、貴子と
いう娘に話したくなった。

「貴子さん、実は貴子という名は大好きだった姉の名でな、早くに亡くなった
が、私には大きな借りがある。同じ名前の貴子さんを抱くというのはな…どん
なにあなたが魅力があっても、ちょっと抵抗があってな…」
「そうなんだ…あの時、小父さんの部屋にあった。あの古ぼけた写真が、小父
さんのお姉さんなんだ。あたしてっきり…!ふふふ…だって小父さん、慌てて
あたしの手から取り上げたもん」

「だろう…貴子さんに似てて美人だっただろう」
「そうか、あの写真な〜んか見たことがあるような気がしたと思ったら、ふふ
っ…!わたしに似てたんだ…!な〜んだ」
藤田に、姉に似たこの娘を抱けるわけなどなかった。横に座る貴子を見ていた
藤田はドキリと身体が震えた。姉に似ているがこの表情はいや違う、和恵だ
…!。

 藤田は突然の喉の渇きに、バーテンの作ったばかりの水割りをゴクリと飲ん
だ。この娘の時々見せるエキゾチックな表情は、姉が生み残した、あの憎むべ
き米兵との混血、和恵の面影…。
「貴子さん…!お母さんの名前、和恵って聞いたことないだろうか…」
「小父さん、和恵って…?和恵じゃない和恵…!。わたし、お母ちゃんのこ
と、お母ちゃんとしか呼んだことないし…モニカねえさんが、わたしのお母ち
ゃん、捨て子でホントの名前なんて分からないって…」
「そ、そぉ…!そうか…」
藤田の声が震えてた。

 藤田は押し込めていた記憶をたどった。和恵…大好きだった姉の忘れ形見…
そして薄幸な娘…。

 父は藤田家の恥だと言った。藤田の家が出資した孤児院に、父は和恵を捨て
た。少年だった藤田は、父親の目を盗むようにして、何度かその施設を訪ねた
が、名乗ることは、とうとう出来なかった。あの頃の、幼女の和恵には、よく
は分からなかったかもしれないが、いつだったか姉の写真を持たせた。そして
自身が大きくなって、いつか出会えたらと…。

 そうだ、耐えられぬ屈辱と妊った不安に、部屋に隠れるようにしていた姉
だ。厳格だった父に、なにも話せず臨月を迎えた。怒り狂う父。母さえ生きて
いてくれたらと戦争を恨んだ。そしてなにより、アメリカという国を、あの金
髪の米兵を憎んだ。

 酒に酔った仲間の米兵に殴られ、押さえつけられた自分の前で、下半身を血
で汚し、気を失う姉の横で、その米兵はズボンを引き上げていた。姉を汚した
男の射精物の白さが、乾いた血の太腿を垂れた。

「俊ちゃん、和恵を頼むね」
姉の最後の言葉だった。姉は亡くなるまで気にかけていた。当たり前だ。時代
が、あんな時代でさえなかったら…。姉は死ぬこともなかったんだ。

 遺影に何度も詫びた。我が子に会うこともかなわず、心労にやせ細った姉の
顔だ。
「ねえさん…ごめん!俺に力がないばかり…。守れなかった」

 40を過ぎて自分の娘が生まれたとき迷わず、もう一度、和恵と名を付け
た。難産だった。生まれと同時に母親を亡くした娘。自分の人を恨む生き様
が、こんな結果をもたらした気がした。亡くなった妻や姉に贖罪の気持ちもあ
った。この先どんなことをしてもこの子に、もう一人の和恵の分まで愛情を注
ぐと決めていた。

「すてきな人だったんでしょ…小父さんの顔に書いてある」
「そうだ…貴子さんに似て、美人だった。だから貴子さんも幸せになって欲し
かった」
「いまさら、そんなの…!そんなのむりだよ…。小父さん、浩ちゃんのこと頼
むね…お願いだからさ…」
貴子が泣きそうに思えて、いてもたまらず藤田は立ち上がった。
「そうかもしれない…。だから貴子さん、日本に帰ったら、是非に私を訪ねて
きて欲しい。いいね…!絶対だ。お願いだ…」

 我が娘の、和恵の幸せを思い、龍神会というヤクザとジェフという女たらし
のジゴロを使った。この後味の悪さ、姉を襲った金髪の米兵とジェフという男
の顔がかさなった。この貴子という娘を不幸にしたのは自分だ。藤田はそう思
った。
 



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