「服を脱ぎなさい!」
壁についたスピーカーから命令が出される
女はメールボックスで見つけたメモの指示に従っていた
男からの指示
***
L通りとM通りの角、85番の大きな灰色の家に来るのだ
ドアの鍵は開けてある
家の中に入り、廊下を左に進み、右手の2番目の部屋に入れ
そして、次の指示を待つのだ
***
女はメモ通りに行動していた
興奮しつつも、少し恐怖感がある
男にはそれが分かっていた
男はいつもこうする
男は、女の恐怖心と弱点を熟知し、さらに、正確にどこまで推し進めるべきかも熟知していた
たとえその行為が何であれ、いつも女をギリギリにまで追い詰める
女が耐えられないと思うまで男は女をテストし続け、ギリギリのところでぴたりと止める
家は暗く、寒々としたところだった
中に入ったときも部屋の灯りは点いていなかった
女もわざわざ灯りのスイッチを探そうとはしない
曇り空の屋外から窓を通して射し込む明かりで充分
部屋に入り、ドアを閉め、立ち止まる
室内を見回した
部屋には二つしか見えるものがないことに気がつく
一つは、入ってきたドアの近く、壁に据え付けられた金色のスピーカーの箱
もう一つは、天井の左隅、遠くの所に据えられたビデオカメラ
ほかには何もない
ドアの反対側にある小さな窓から、ぼんやりとした明かりが射し込んでいる
「服を脱ぎなさい!」
スピーカーから命令が出される
女は、ゆっくりと服を脱ぎ始めた
シャツから始めて、次にスカート
そして下着
脱ぎ進むにつれて、女は脱ぐスピードを遅くしていく
恐怖心が湧き上がるのを感じる
もし彼じゃないとしたら、一体どうなるのか?
スピーカーの声の持ち主は誰なのか?
あのカメラ越しに見ている人は何人いるのか?
とうとう、素裸になる
部屋の真中、素裸で立ち尽くす
衣類は足元に脱ぎ捨てられたまま
空気の冷たさに凍えた
次の指示を待ちながら、両腕で胸を抱えるようにして凍えをしのぐ
「指輪も外しなさい!」
再び、スピーカーから声がした
女の顔が青ざめた
「お願い・・・これは・・・」
囁くような声
「外すのだ!」
女には分かっていた
空っぽの部屋で裸で立っているのに、指輪のことで抵抗するなど馬鹿げていることを
指輪が返されないかも知れないから?
違う
返してもらえるのは分かっている
女は、その指輪を一度も外したことがなかったのだった
眠るときも、水浴するときも
自分の指の一部のように感じていた
そして、男はそのことを知っている!
これも彼のテストの一つ
スピーカーは沈黙したまま、女が決心をつけるのを待っているようだった
夕暮れが深まるに連れ、壁の影が暗さを増していく
女はためらいながらも、ゆっくりと指輪をはずした
女は本当に裸になったと感じた
自分に馴染みがあるものはすべて足元に脱ぎ捨てられていた